マイクロソフト 平野高志氏
 「Microsoftはオープンソース・ソフトウエアと共存したいと考えているが,GPLは特許について否定的であり,問題がある」――マイクロソフト 執行役 法務・政策企画本部統括本部長 平野高志氏は12月1日,講演の中で同社のオープンソース・ソフトウエアに対する方針をこのように語った。

 平野氏は,12月1日に行われたイベント「Open Source Way 2004」(関連記事)で「マイクロソフトとオープンソース」と題して講演,マイクロソフトの知的財産権についての方針や,顧客に対する知的財産権リスク補償について説明した。

 「米国では法律事務所が特許を買いまくって訴訟を仕掛けている。米Microsoftは“ディープポケット”とされ,格好のターゲットにされている」(平野氏)。米InterTrustとの知的財産訴訟でMicrosoftは4億4000万ドル(約440億円)を支払った。米Eolasとの係争ではMicrosoftは一審で敗訴し5億ドルの支払いを命じられた。現在控訴中だ。

 「このようなリスクをお客様に飛び火させてはいけない」(平野氏)。Microsoftは従来も顧客が知的財産権に関して訴訟に巻き込まれた際に訴訟費用を負担する補償を提供してきたが,昨年,商標および営業秘密についての補償を追加し,特許権についての責任の上限を撤廃した。今年これを拡大し,ほとんどすべての有償製品について,すべての顧客に同じレベルの補償を提供するようにした。

 「この補償が製品の差別化につながっていると考えている。米Novellの補償プログラムは著作権はカバーしているが特許はカバーしておらず,金額の上限がある。米HPの補償プログラムは米SCO Groupに対する訴訟に限定されている。米IBMははっきりしていない」(平野氏)。

 また平野氏は「マイクロソフトは特許を抱え込まない」という。「2003年12月に『すべての相手に特許をライセンスする。商業上合理的な条件に基づきライセンス供する』という方針を発表した。XML特許およびXML schemaのライセンスを無償で供与している。90件を超えるロイヤリティ取引の交渉が継続している」(平野氏)。

 オープンソース・ソフトウエアとのかかわりについては,次のように説明した。「知的財産権は継続してビジネスを行い新製品を創作するための根源であり,Microsoftは知的財産権を尊重する。Microsoftはオープンソース・ソフトウエアと共存したいと考えているが,そのためには同じルールに従って活動する必要がある。オープンソースは大学に起源を有するものであり,特許に対価を支払う必要がない環境で発展してきた。多くのオープンソース・ソフトウエアは知的財産の検討を経ずに開発されている。GPLでは特許を行使される場合は配布を完全に中止するしかない,と規定しており,特許と共存できない。ロイヤリティを基礎とした知的財産権との連携を阻止しようとしている。オープンソースとは共存したいが,GPLは問題がある」(平野氏)。

 会場からは「知的財産権の補償が適用されるようなケースはほとんど起きないのではないか」との質問があった。平野氏はこれに対し「実際には補償が適用されるようなエンドユーザーを対象にした訴訟はまだ発生していないが,顧客を保護する態度を示し,安心感を与えることが重要」と答えた。また「Microsoftは知的財産権に配慮し開発しており,オープンソースの多くは配慮していないというが,審査中で公開されていない特許もあり,100%侵害しないことは不可能ではないか」という質問が寄せられた。平野氏は「完全に侵害しないことは不可能で,実際に訴えられているが,だからこそ顧客を保護することが重要になる」と述べた。

(高橋 信頼=IT Pro)