12月1日,オープンソースを政策や法律面から考えるイベント「Open Source Way 2004」の2日目が開催された。11月30日から2日間にわたって行われたが,2日目は「オープンソースと知的財産権」をテーマに,マイクロソフトの法務担当や弁護士といった法律の専門家などによる講演が行われた(1日目のレポート記事)。
「ソフト品質向上のためにライセンスが重要」
| ||
| ||
| ||
| ||
| ||
|
八田氏は「オープンソースに対し,社会貢献といった思い入れを持つ人もいるが,オープンソースは単なる方法論であり,目的のために理解して使いこなすべき」と語った。
オープンソース・ライセンスにおける特許の扱いについても触れた。GPLでは現状,特許について言及していない。「GPLの次のバージョン3.0では特許の行使を制限する条項が検討されているが,利用者に受け入れられるかどうかが問題になるだろう」と語った。
マイクロソフトは知的財産権の補償で差異化
マイクロソフト 執行役 法務・政策企画本部統括本部長 平野高志氏は「マイクロソフトとオープンソース」と題して講演した。マイクロソフトの知的財産権についての方針や,顧客に対する知的財産権リスク補償について説明した(詳細記事)。
Microsoftは顧客が知的財産権に関して訴訟に巻き込まれた際に訴訟費用を負担する補償を提供しており,これが他社製品やオープンソース・ソフトウエアに対する差異化につながるという。
オープンソース・ソフトウエアとのかかわりについては「Microsoftはオープンソース・ソフトウエアと共存したいと考えているが,GPLは特許について否定的であり,特許と共存できない。」(平野氏)と述べた。
オープンソース・プロジェクト運営の実際
凸版印刷 情報ビジネス開発本部研究開発部 野首貴嗣氏は「オープンソースプロジェクトマネージメント」と題し講演した。Debian GNU/Linuxやnamazuプロジェクト,Zaurus-jaプロジェクトにかかわった経験から,オープンソース・ソフトウエアを開発するプロジェクト運営の実際を紹介した。オープンソース・プロジェクトの運営は,設計,開発だけでなく,ドキュメントの作成,コミュニティの維持(メーリング・リストや掲示板などの管理),Webコンテンツの保守,サーバーの保守など多岐にわたる。プロジェクトが大きくなると,法人化など組織化が必要不可欠になる。しかしやはりプロジェクトの成功の鍵は「人」であるという。
「ソフトウエア特許への投資を回収しようとする動きは必ず起きる」
中央大学 理工学部経営システム工学科教授で日本知財学会副会長の今野浩氏は「ソフトウエア特許――何でも特許,どこでも特許の時代」と題して講演した。
今野氏は「数学もDNA情報もビジネス・モデルも特許になる『何でも特許』時代,大学の中での研究も,原則として特許に縛られる『どこでも特許』時代が到来している」(関連記事,今野浩の「ソフトウェア特許論」)と語り,「ソフトウエア特許にこれだけ投資が行われている以上,回収しようとする動きは,事件として数年以内に起こるだろう。どろどろの戦いが起こるのではないか」(平野氏)との見方を示した(詳細記事)。
「匿名幻想」が利用者を“図に乗らせる”
弁護士の小倉秀夫氏は「ソフトウエアなどの提供者の法的責任―ファイルローグ事件とWinny事件を題材に」と題して講演した。小倉氏は,PtoP型のファイル交換サービス「ファイルローグ」がレコード会社などに訴えられた事件で,ファイルローグを運営する日本エム・エム・オーの弁護人を務めている。小倉氏は,米国のNapstar事件,日本のファイルローグ事件,winny事件を解説し,法廷での争点について専門的な解説をおこなった。
またインターネットの匿名性問題に触れ「『インターネットは匿名』という幻想が,利用者を“図に乗らせて”いる。利用者に住所氏名を正しく登録させることは困難であり,事業者にその義務を負わせるのは酷だが,事業者はできる限りの努力をすべきではないか」と述べた。
日本語版も登場したクリエイティブ・コモンズ
一橋大学大学院 社会学研究科修士課程 福島直央氏は「クリエイティブ・コモンズ,ライセンス解説」と題して講演した。自分の著作物をもっと使用してほしい,非営利なら使用してほしい,共有するのであれば改変してかまわないなど著作者の多様な思いに応えるライセンス「クリエイティブ・コモンズ」の特徴や使用方法などを解説した。
創造性のための強共有地を意味するクリエイティブ・コモンズは2002年に誕生,2004年3月には日本語版クリエイティブ・コモンズも作成された。福島氏は,クリエイティブ・コモンズで公開されたギター演奏に他の演奏家がバイオリンを加え,また他の演奏家が歌を,また他のクリエイターが映像を加えた作品を紹介し,「クリエイティブ・コモンズは数年でその価値がわかるものではなく,数十年たって真価が分かるプロジェクト。一過性のブームで終わらせたくない」と語った。