ぷららネットワークスは7月8日から,フレッツ用のテレビ放送とビデオ・オン・デマンド・サービス「4th MEDIA」を開始した(関連記事)。同サービスは,配信網としてNTT東日本のIPv6による閉域網「FLETS.Net」を利用する。NTT西日本はIPv6による閉域網を提供していないため,4th MEDIAは今のところNTT東日本のサービス提供地域だけでしか利用できない。当面,東日本だけでの提供となってもIPv6を採用したのはなぜか。ぷららネットワークスの中岡聡 取締役サービス企画部長に聞いた(以下,敬称略)。聞き手はIT Pro和田英一。

――昨年行っていた試験放送(関連記事)ではIPv4を使っていたが,本放送でIPv6を採用したのはなぜか。

中岡:有線役務利用放送の試験免許と本免許では条件が違っているためだ。帯域4Mbps以下での試験免許ではマルチキャストは必要ないが,本免許では収容局までマルチキャストで配信する必要がある。

 そのマルチキャスト網を作るにあたって,今から新しいマルチキャスト網を作るなら新技術を使うべきと考えた。IPv4でマルチキャスト網を構築しても,数年後にIPv6で作り直すことになる。マルチキャストの技術は,IPv4ではIGMPだが,IPv6ではMLDというプロトコルを用いる。技術的には異なっており,一からマルチキャスト網を作り直すことになり,無駄になってしまう。

――ビデオ・オン・デマンド・サービスだけであれば,マルチキャストは必要なかったのか。

中岡:そうだ。衛星放送などの同時再送信である放送サービスにマルチキャストが必要だった。そのためにIPv6を用いた。ただし,ビデオでも特に人気が高い番組は,アクセスが集中が見込まれるので,公開当初は「ループ」と呼ぶ形で公開する。同じ番組をぐるぐると再生を続けるのだ。これは放送と同じようにマルチキャストで配信する。

――マルチキャスト以外でIPv6のメリットはないのか。

中岡:IPアドレスの数の問題がある。通常のインターネット利用であれば,ダイヤルアップであれば,ユーザー数の10%程度が同時に使われる。光ファイバのBフレッツでも同時接続は50%程度だ。ところが,4th MEDIAを視聴するためのセットトップ・ボックスは,ほとんどの場合,電源を入れっぱなしで回線をつないだままなので,100%近くなる。つまりユーザー数の数だけIPアドレスを用意しなくてはならない。固定IPアドレス・サービスのようなものだ。これをIPv4でやろうとすると,アドレスが足りなくなる可能性がある。

 サーバーが常に端末のIPアドレスを把握しておく必要がある場合もIPv6が向いている。セットトップ・ボックスだけでなく,IP電話の場合もそうだ。IP電話の電話端末とサーバーの間では,サーバーが端末のIPアドレスを認識し続けるために,キープアライブを流し続ける。このトラフィックがばかにならない。端末数が多ければ,通話トラフィックよりも多くなってしまうこともある。IPv6であれば,端末に対してIPアドレスを決め打ちにできるので,キープアライブを流し続ける必要がない。

――サービス提供者側にIPv6を使うメリットはあるとして,ルーターなどのネットワーク環境がIPv6対応になっているフレッツ・ユーザーは,そんなに多いとは思えないのだが。

中岡:今,宅内ルーターで対応しているのは少ない。しかし,ファームウエアのバージョンアップでFLETS.Netに対応できる。望ましいのIPv4とIPv6のデュアル・スタックのルーター。とりあえずの対応として,ルーターにIPv6のパケットは透過させるバイパス・モードを付けて,FLETS.Net対応としているルーターもある。これだけIPv4が広まると,なかなかIPv6は普及しない。IP放送がきっかけとなって,宅内ルーターのIPv6対応が進むことを期待したい。

――NTT西日本は,フレッツ・ユーザー向けのコミュニケーション・サービスという点ではNTT東日本のFLETS.Netと同様の「フレッツ・コミュニケーション」を提供している。しかし,フレッツ・コミュニケーションはIPv6ではない。4th MEDIAはNTT西日本のサービス・エリアではどうするのか。

中岡:NTT西日本も今後,IPv6のサービスを提供するはずだ。そうすれば4th MEDIAを西日本でも提供できる。