私はプロの講師として、データ分析や問題解決(ロジカルシンキング)などの研修を実施している。すると受講している人たちの理解力には、大きな違いはないと感じるようになった。
しかし、新しいスキルを学んだ後、成果を出せているところとそうでないところの間には、はっきりと差が出ている。前回はその理由として、社員がデータ分析のスキルを使う「インセンティブ(褒美)が用意されていない」ことを挙げた。
今回は、2つめの原因を考えてみたい。スキルを使う「時間がない」という問題である。
職場に戻ると、データ分析を試す余裕がない
結論から言おう。研修や講義でせっかく学んだスキルを、職場で「試す」時間が用意されていない企業が非常に多い。研修の翌日、自分の仕事場に戻ってみると、いつもと変わらぬ業務の山に追われることになる。仕事をさばきながら、昨日習った新しいデータ分析にトライしてみようと思っても、その余裕がないのだ。
周囲の同僚たちも目の前の仕事に追われて、あたふたしている。そんななかで突然、自分だけがデータ分析を始める時間を確保するのは難しい。データ分析をしている様子は、パソコンに向かってExcelをいじっているだけにしか見えないかもしれない。だから、職場でデータ分析を始めるには、心理的なハードルが相当高い。周りから「あいつは何をやっているんだ!」と言わんばかりの冷たい視線が飛ぶことさえある。
「この分析は効果がありそうだぞ」と研修で手応えを感じた手法でも、職場に戻ると実践する時間的、精神的な余裕がないという現実に、多くの人が直面する。途端に気持ちは萎えてしまう。そして「やっぱり、やめておこう」となる。データ分析をやらなくても、とりあえず日々の業務は回っていく。これでは学んだスキルが組織に定着するわけがない。
このような事態に陥る背景には、2つの勘違いがある。1つは、習ったスキルは「明日から使える(役立つ)」という誤った認識だ。研修の主催者や経営者が、そう思い込んでいるのが厄介なのだ。研修を1回受ければ、翌日からすぐに結果を出せる状態になるという過剰な期待を抱いている。そんな魔法のようなデータ分析は存在しない。
無数にある研修のなかには「すぐに使える」「明日から使える」といった宣伝文句が踊るものも少なくない。マナー研修や新人研修などは確かに、そのまままねをすれば、明日からでも使えるのかもしれない。
しかし、ビジネス課題を解決するために使うデータ分析に、明日から使えてすぐに結果を出せるような都合の良いものなどない。あれば、とっくに普及している。