前編に続き、NECのCMO(最高マーケティング責任者)の清水隆明取締役執行役員常務とシンフォニーマーケティングの庭山一郎代表取締役の対談をお届けする。
ターゲットとなる企業(アカウント)を中心にマーケティング施策を展開する「ABM(Account Based Marketing)」の実践に当たって、庭山氏は“企業の文化”を変える必要があると提言していた。では清水氏がNECの文化を変えるにあってどのようなステップを踏んだのか。後編の議論はここからスタートする。
企業の文化を変えるのは、特にNECのように大きな会社では難しいことだと推測できます。具体的にどのようなステップを踏んだのでしょう。
清水:会社の文化を変えるのはなかなか難しいです。ABMという言葉がなかったころから、お客様をセグメンテーションして営業担当者を指導するという古典的なマーケティングはあったのですが、うまくいっていませんでした。営業の担当者に理解してもらうには、営業が狙っているお客様の情報を渡すとか、うまくいった事例を作るとかいった成果を積み重ねるしかありませんでした。
庭山:私はABMを導入する企業に、最初から営業部門を巻き込まないことを薦めています。営業はマーケティングオートメーション(MA)にもスコアリングにもアクセスにもあまり興味がありません。マーケティングのことはそれほど信用しておらず、お客様や製品のことは自分がいちばん分かっていると思っているからです。
それでもデータを見て、自分の会いたい人がいるとか、先週会ったときに興味のないそぶりを見せた人がいるとか、競合会社と強くつながっている人がうちのサイトをこんなに見ているとかいうデータには食いついてきます。
その瞬間を見逃してはいけません。営業はお金の匂いがする人の振る舞いを常に気にしているのです。
マーケティング部門が、数字で表したり成功例を積み重ねたりすれば変えられるのでしょうか。
庭山:日本の会社で多いのはスモールスタートで、新設のマーケティング部門が予算をもらいMAを買って小さく始めるというのが典型的です。しかしデータに個人情報を入れようとしても、営業部門に名刺情報の提供を求めても拒否され、イベント担当の広報に求めても個人情報の観点から断られます。つまりマーケティング活動を実践しようとして、組織をまたぐときに壁に当たるのです。