まずモダンPMの成果と限界についてお聞きします。モダンPMの代表格「PMBOKガイド(以下、PMBOK)」の推進団体であるPMI日本支部の会長を務められた神庭さんはどのようにご覧になりますか。

神庭 弘年 氏
神庭 弘年 氏
神庭PM研究所所長
1973年に日本IBMに入社し、SIプロジェクトのプロジェクトマネジャーを歴任。多業種の開発担当、特に製造業での経験も積む。2002年にAsia Pasific PM Profession Leader、2003年に日本IBM理事、2005年に日本IBM PM Profession Executiveに就任。2008年から2013年までPMI日本支部・会長を務める。2011年に日本IBMを退職し現職。PMI日本支部・監事。慶應義塾大学SDM、筑波大学大学院などの非常勤講師も務める。

神庭:モダンPMは一つのフレームワークとして世界中で支持されてきました。この点について否定する人は少ないと思います。また(PM認定資格の)PMPの取得者も増えており「標準」を適用する方法でプロジェクトの成功率を上げるスタイルが広がりました。

それが大きな成果ですね。

神庭:はい。ただしPMBOKがすべてのプロジェクトの進め方にジャストフィットするかと言うとそんなことはない。どんな標準を作っても、常に“外れ値”が出てしまいます。その外れ値の重要性が大きくなっているのが現状です。

具体的な外れ値とは。

神庭:例えば規模が小さくて変化に強いアジャイル系のプロジェクトですね。規模が小さいからといって簡単なわけではありません。今はマーケットの要求にすぐに応えなければならないプロジェクトが多い。こうした“スピード命”のプロジェクトでPMBOKの統合マネジメントやスコープマネジメントをじっくりやっていては間に合いません。

PMBOKの厳格さが問題の一つですか。ユーザー企業の立場である損保ジャパン日本興亜の浦川さんは厳格さについてどう評価していますか。

浦川:神庭さんの意見に同感です。ものづくりの進め方は大きく変わってきています。例えば私たちは今、多くのプロジェクトでプロトタイプを作りながらインクリメンタル(追加)型でシステムを仕上げています。スプリント(反復)を3週間単位で回すもので、そのつど課題を出してカスタマイズする。その上で、どこでリリースするかを見極め、本稼働につなげています。

まさにアジャイルですね。

浦川:そうなった途端に、モダンPM の厳格なスコープマネジメントを入れようとすると、うまくいかないのです。(モダンPMでは)何か変更要求があると「紙に書いて出してください」というやり方です。そんなことを現場でやっていてはスピードが間に合わない。だから別な形でスコープマネジメントをやらないといけないのです。

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