「社員は3人、インフラや運用の担当者はいない。それでも、高信頼を求められる大企業向けサービスを3カ月で構築し、スムーズに運用できている」。危機管理サービスのスタートアップ企業であるレックスマネジメントの秋月雅史氏(代表取締役社長 CEO)はこう話す。同社は2015年7月、BCP実行支援サービス「Klotho(クロト)」の提供を開始した。そのサービスを支えるのが、アプリケーション開発運用基盤のPaaS(Platform as a Service)である。

 同社が利用しているのは、米Salesforce.comのPaaS「Force.com」。Klothoの開発責任者を務める小林宗明氏(取締役 CTO 兼 クラウド技術部長)は「Force.comは仕組みの理解や独自言語の習得が必要なので学習コストが高いものの、それを補って余りあるほど迅速に開発を行える。運用の手間も掛からない」と打ち明ける。PaaSの採用により、スタートアップや新規事業に不可欠ともいえる高い開発速度、手間いらずの運用容易性を手に入れたのだ(図1

図1●PaaSを使って3カ月で新サービスを開発
図1●PaaSを使って3カ月で新サービスを開発
スタートアップ企業のレックスマネジメントはForce.comを基盤にBCP支援サービス「Klotho」を開発した
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 Force.comを使ったことで、インフラやデータベース(DB)の設計が不要になった。可用性、セキュリティ、マルチテナント対応などはForce.comに備わる機能をそのまま用い、設計や実装の手間を省いた。オンプレミス環境だと設計や調達でほぼ1年掛かる見通しだったが、PaaSの活用で工期を約10カ月削減。結果として、アプリケーションエンジニア2人だけで、3カ月で開発できた。

 実際にシステムが稼働してからは、「運用面の手間がとても少ないことを実感している」(小林氏)。まず、インフラ管理から解放された。インフラ監視や、ハードウエア障害時の復旧作業をすべてPaaS事業者が実施するからだ。同社のサービスでは、認証やそのためのID管理もPaaS事業者に任せている。

新規事業のシステムを素早く開発

 ユーザー企業のシステム部門との付き合いが深いアイ・ティ・アール(ITR)の甲元宏明氏(プリンシパル・アナリスト)は、「ここ最近、アプリケーションの開発運用基盤としてPaaSを採用する企業が急増している。特に多いのが、新規事業や顧客との関係構築、スマートフォン向けWebサイトといったシステムだ」という。

 そうしたシステムでは、すべての要件が初期段階に決まることはない。まずは素早く立ち上げ、実際のユーザーの行動ログや声を基に改善点を探る。つまり、最初は必要最低限と見られる機能を実装してベータ版相当のサービスを立ち上げる。その後、運用しながら短いサイクルで改修を繰り返し、本格サービスに仕立てていく。

 こうしたアプリケーションの基盤には、PaaSが有力な選択肢になる。その理由は大きく3点ある。

 一つめは、インフラやDBの設計、実装の大部分を省けること。インフラを設計して、サーバーやストレージを調達し、その後にOSやDBをはじめとするミドルウエアをインストールして設定する――といった作業が不要になる。作業開始からわずか数分で、インターネット上にアプリケーションの実行環境を作成できる。

 二つめはデプロイ作業が高速かつ簡単で、運用に手間が掛からないこと。従来は、デプロイ先サーバーに接続してミドルウエアの設定(変更)を行い、実行可能ファイルやソースコードをコピーするといった作業が必要だった。頻繁にアプリケーションを変更したい現場では、こうした作業は負担になる。PaaSならワンクリックでビルドやデプロイを自動で実施したり、コードリポジトリーと連携して自動デプロイしたりできる。

 三つめはアプリケーションの部品を用意していること。例えば、米IBMの「IBM Bluemix(ブルーミックス)」では人工知能として注目されている、コグニティブ(認知)コンピューティング「Watson」を利用できるAPIを用意する。

 ITRの甲元氏は「PaaSの特徴をフル活用すれば、オンプレミス環境での開発に比べて10倍以上速くなると見ている」という。

 以下では、まずPaaSの概要とアプリケーション開発の進め方を説明し、続いてPaaSの選び方を紹介する。

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