躊躇すれば競争力を失う

標的型攻撃による個人情報流出が相次いでいます。

アーロン・レヴィ(Aaron Levie)氏
アーロン・レヴィ(Aaron Levie)氏
1985年、米コロラド州生まれ。南カリフォルニア大学在学中の2005年にクラウドストレージサービス「Box」を創業した。個人向けクラウドストレージサービスの競争激化を受け、2007年に事業の主軸をエンタープライズ向けに切り替えた。2015年1月にはBoxをニューヨーク証券取引所に上場させている。
写真:陶山 勉

 まず言いたいのは、レガシーなテクノロジーは最新のクラウドソリューションと比べてセキュリティレベルが明らかに低いということ。現在、広がっている攻撃に対してレガシーなテクノロジーが太刀打ちできないのは、急増する日本の個人情報流出事件を見ても明らかだ。新しい攻撃手法に対して、企業側に備えがない。

 この問題を語るとき、オンプレミスとクラウドという対比は適切ではない。テクノロジーがレガシーなのか、最新なのかという比較をすべきだろう。

 Boxはデータへのアクセスをきめ細やかに制御できるほか、どこから誰がアクセスしたのかも把握できる。あらゆものを可視化できるのだ。だからこそ、大企業や米国法務省が採用している。

Boxは2007年に、いち早くエンタープライズ向けのプロダクトへと切り替えた。

 我々はエンタープライズ向けのセキュリティとコンシューマーとしての利用体験を両立させているところに強みがある。米ウォルマート、米GE、トヨタなどの大企業が採用しているが、個人レベルでの使い勝手、セキュリティの高さの両方を実現している点が評価されている。

 現在、世界中で4万7000社がBoxを採用しており、米フォーチュン誌が毎年発表する総収入ランキング「フォーチュン500」の51%がBoxを導入している。

クラウドストレージサービスに対して懐疑的な見解の企業が多いのも事実です。

 クラウド移行に時間をかける企業が多いのは事実だ。だが、現場で働く社員にとっては足枷(かせ)以外の何物でも無い。自分たちの組織、自分たちのビジネスの歩みを遅らせているだけだ。

 2010年頃は米国でも金融のようにクラウド移行に及び腰だった業界もあるが、今ではどの業界も同じようにクラウド移行が必須だと考えている。日本企業も競合に対する優位性を確保したいのであれば、クラウド移行に対して躊躇すべきではない。

 日本企業には大きく2つの種類がある。Boxを採用している第一三共、楽天、早稲田大学、ディー・エヌ・エーのように競合に対する優位性を確保するために前向きに採用する企業群がある。一方で、クラウド移行に対してゆっくりなところもある。

 こうした企業の背中を押すために、NTTコミュニケーションズと提携して「Box over VPN」を年内をめどに開始することにした。NTTが提供する企業向けの安全な回線を通じてBoxを利用できるようにする。これによって、クラウドに対して懐疑的な大企業にも我々はリーチできるようになる。

エンタープライズ向けクラウドストレージサービスは競合の事業者も虎視眈々と狙っている。

 米ドロップボックスが提供している「Dropbox」に市場を奪取されることはまずないと言っていい。彼らは自分たちのなりたい姿が見えていないようだ。だからこそコンシューマー市場に力を入れつつ、エンタープライズ市場に触手を伸ばしてみたりしている。エンタープライズ市場を押さえることは不可能だろう。

 一方、「OneDrive」は同じクラウドストレージサービスだが、提供する米マイクロソフトとは我々は今まで以上に提携を強化していく。同社が提供するWeb版オフィスアプリケーション「Office Online」とBoxを統合し、Box上でOffice Onlineのファイルを作成したり管理したりできるようになる。

企業買収も積極的に進めている。

 最近では、2015年4月にクラウド上で3次元モデルの作成や閲覧を可能にするカナダのベロルドを買収した。製造業や消費財メーカーでは、開発している段階で3Dモデルを見たいというニーズがある。我々は、ベロルドの技術をBoxと統合し、Webブラウザーやモバイル端末を通じて3Dモデリングを作成したり閲覧できたりする環境を整えていくつもりだ。

 Webブラウザー越しにこうしたデータを閲覧できればクラウドストレージサービスのセキュリティそのものが高くなる。自動車メーカーやゲーム企業でこうしたテクノロジーを使ってもらえると考えている。