個人利用を会社で正式導入に
中小企業でクラウドストレージサービス導入に踏み切るケースも出てきている。
スマートフォン向けゲーム開発会社であるエイリムは2014年7月、クラウドストレージサービス「Dropbox」の企業版「ビジネス向けDropbox」を導入し、現在、100アカウントを運用している(図2)。
ゲーム会社はデータ量の多いグラフィックスデータのやり取りが多い。そのため、社内に構築したファイルサーバーやDropboxの個人向けサービスを利用している社員が多かった。システム部門からすれば、外部のサービスを利用されるのはリスクが大きいが事実上、容認していた格好だった。
個人利用の場合、Dropboxで最初に利用できるストレージ容量は2Gバイト。友人の紹介やソーシャルメディアとの連携など指定されたアクションで約23Gバイトまで無料で増量できる。徐々にエイリム内で広がっていたDropboxだが、ついに容量が足りない事態に陥った。利便性を考えれば止める選択肢はない。
容量を増やすか別のクラウドストレージサービスへ切り替えるかの検討を迫られたエイリム開発部の関根雅文氏は「社員が使い方に慣れているDropboxをそのままビジネス版に切り替えた方が得策」と考え、ビジネス向けDropboxの導入を決めた。ビジネス向けDropboxのストレージ容量は導入当初は1Tバイトだが、申請すれば無料でストレージ容量を無制限で追加できる。
ストレージ容量の問題からビジネス版の導入に踏み切ったエイリムだが、「もともと利用していた個人アカウントとの両立が懸念材料だったが、スムーズに統合されている」とエイリム代表取締役の高橋英士氏は満足げだ。また、「グラフィックデザイナーのラフデザインを外出先からでも確認できるため意思決定が速くなった」(高橋氏)という。
開発部門にとっては、「著作権のあるイラストデータの流出を防げる」(関根氏)と、データの保護という点でメリットが大きいようだ。ゲーム会社は人の出入りが多い。退職者が利用していたDropboxのデータをローカルのPCから遠隔で削除できる点に満足しているという。
エイリムが導入を決めたDropboxは2015年6月25日に全世界の登録者数が4億人を突破したばかり。圧倒的な個人からの支持を得つつ、エンタープライズ向け機能を急速に強化させつつある。「この1年で管理者向け機能やセキュリティの機能を急速に強化してきた」とDropbox Japanのカントリーマネージャー、河村浩明氏は胸を張る。
同社の強みは個人向けサービスで有数の利用者がいることに加え、「個人向け有料サービス『Dropbox プロ』の7~8割が仕事で利用されている」(河村氏)こと。既に社員が利用しているため、システム部門が管理できる「ビジネス向けDropbox」にそのまま移行するエイリムのようなケースが多いようだ。