本連載の第10回で、無線LAN同士の干渉について取り上げました。そのなかで、ある無線LAN端末が送信すべき無線LANフレームを持っていたとしても、同一チャンネル(周波数)上にほかの端末が送信中のフレームが存在すると、その時点でのフレームの送信は抑制されると説明しました。

 この端末がフレームを送信するには、まず先行するフレームの送信が終了する必要があります。ただし、終了後すぐに送信することはできません。フレームの送信が抑制された状態の端末が複数存在する場合、同時にフレームの送信を始めてしまい、いわゆるコリジョン(フレームの衝突)が発生してしまうためです。

ランダムな空き時間を設け同時送信を避ける

 コリジョンを避けるため、無線LANではフレームを送信するたびに「バックオフ」と呼ぶ処理を行い、コリジョンを避ける動作をします(図1)。バックオフとは、フレームの衝突を回避するために、フレーム送信を待機するランダムな時間です。これを設けることで、各端末がフレームを送信するタイミングをずらし、コリジョンがなるべく発生しないようにしています。

図1●CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)に基づくフレームの送受信。端末Aと端末Bは送信すべきフレームを持っているが、端末Cが送信中は待機しなければならない。端末Cがフレームの送信を終えると、バックオフの短い端末Bが先にフレームの送信を始め、端末Aは再び待機状態となる。このように、無線LAN端末は他の端末がフレームを送信している間は待機し、またフレームの送信タイミングが重ならないように送信権を得る仕組みとなっている
図1●CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)に基づくフレームの送受信。端末Aと端末Bは送信すべきフレームを持っているが、端末Cが送信中は待機しなければならない。端末Cがフレームの送信を終えると、バックオフの短い端末Bが先にフレームの送信を始め、端末Aは再び待機状態となる。このように、無線LAN端末は他の端末がフレームを送信している間は待機し、またフレームの送信タイミングが重ならないように送信権を得る仕組みとなっている
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 しかしバックオフを利用しても、コリジョンの発生を完全に防ぐことはできません。また、フレームを送信しようとしている端末の数が多くなれば、原理的にコリジョンが発生する可能性は高くなります。また、待ち時間も長くなる傾向が出てくるはずです。

 無線LANに接続するとき、無線LANに付けられた名前であるSSIDが、その無線LANの識別情報となります。この無線LANが複数のアクセスポイント(AP)で構成されている場合、そのうちのどれかに接続することになりますが、ユーザーが接続先のAPを意識することはまずありません。無線LAN端末が、接続先のAPをそれぞれ独立して選ぶようになっています。

 これは、別の言い方をすれば、多くの端末が特定のチャンネルやAPに偏る可能性があるということです。図2は、Fluke Networksの無線LAN専用アナライザー※であるAirMagnet WiFi Analyzerを用いて、ある無線LAN環境をモニターしたものです。このような偏りが生じると、特定のチャンネル/APのもとで干渉やコリジョンが起こりやすくなり、AP全体で見た場合に性能が低下している可能性があります。

※LANアナライザーは、LANを流れるトラフィック(ここでは無線LANのフレームを指す)をキャプチャーして分析できるツールのこと

図2●WiFi Analyzerで、複数のAPで構成される無線LAN環境への端末の接続状況を表示したところ。同一のAPに複数の端末が接続されているとき、これらの端末の間で送信権を争奪することになる。接続する端末の数が多ければ、送信権の争奪に参加する数も多くなる可能性があり、個別の端末ではパフォーマンスの低下が感じられるかもしれない。送信権の争奪を緩和するという観点から、この図に示すような特定のAP(リストの上から2番目のAP)に端末が集中して接続している状態は望ましくないと言える
図2●WiFi Analyzerで、複数のAPで構成される無線LAN環境への端末の接続状況を表示したところ。同一のAPに複数の端末が接続されているとき、これらの端末の間で送信権を争奪することになる。接続する端末の数が多ければ、送信権の争奪に参加する数も多くなる可能性があり、個別の端末ではパフォーマンスの低下が感じられるかもしれない。送信権の争奪を緩和するという観点から、この図に示すような特定のAP(リストの上から2番目のAP)に端末が集中して接続している状態は望ましくないと言える
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