2015年7月28日に開催された「ITインフラSummit 2015 夏」の講演のうち、パブリッククラウドの活用事例として協和発酵キリンの講演を、パブリッククラウド関連のソリューションを提供するベンダーとして、ニフティ、ヴイエムウェアの講演の詳細を報告する。

ユーザー講演:協和発酵キリン
AWSで基幹システムが2年余り稼働、安定稼働とコスト削減の秘訣

 2013年初めからAWS(Amazon Web Services)上でデータセンターを本番運用してきた協和発酵キリン。情報システム部長の篠田敏幸氏は、同社にとってクラウドは必然だったと述べ、以下の5つの要件を理由に挙げた。

協和発酵キリン 情報システム部長 篠田 敏幸 氏
協和発酵キリン 情報システム部長 篠田 敏幸 氏

(1)ITインフラの維持管理ではなく、業務の実行にフォーカスする
(2)増大するITコストの抑制
(3)業務アプリケーションのサービスインを迅速化
(4)グローバル共通で使えるアプリケーションが必要に
(5)「エンタープライズHub」を中心としたシステムアーキテクチャーとの合致

 「エンタープライズHub」とは、協和発酵キリン独自のデータモデルである。複数のシステム間でマスターデータを連係させる「マスターHub」と、トランザクションデータを扱うDWH(データウエアハウス)「TR-HUB」で構成する。

 エンタープライズHubの周囲には、各種パッケージソフトやERP、SaaSなどが疎結合されている。これらのコンポーネントは、パッケージでもスクラッチでもクラウドでもよく、取り替えも可能だ。この独自の疎結合モデルがクラウドと非常に親和性が高かったことが大きなポイントになった。

 同社における仮想化への取り組みは、仮想サーバーの導入から始まった。だが、「だんだん大規模になっていく」(篠田氏)ことが悩みとなり、パブリッククラウドに着目。2011年春からAWSの試用を開始した。その後、2012年に評価用のプライベートクラウド環境をAWS上に構築し、2013年からは本番運用に移行した。

 2年余り経過したが、「業務スピードの向上、企業利用でも安心なセキュリティ、コスト低減といった面でAWSは期待に応えている」と篠田氏。現在進めているエンタープライズHubのAWSへの移行も順調で「老朽化した部分から徐々に移行しており、あと2年ほどで完了する予定」(篠田氏)である。

クラウドファーストを社内で徹底

 2015年6月末時点で、基幹系から開発環境まで含め27のシステムがAWS上で稼働している。クラウドファーストを徹底しており、新システム構築にあたっての判定基準として(1)パブリッククラウドとオンプレミス環境のコスト比較、(2)オンプレミスのシステムを提案する場合、「クラウドではダメな理由」を提示する、の2つを設けている。

 「費用がほぼ同等ならクラウドを採用する。どうしてもオンプレミスでなければダメなケースについても、仮想化が前提だ」と篠田氏。AWS利用のシステムについてはコスト試算シートの作成を義務付ける。現在、月額約5万ドルをAWSに支払っているが、篠田氏は「比較的安く済んでいると思う」と述べた。

 篠田氏はAWSがオンプレミスと大きく違う点として、(1)バックアップ装置、(2)ネットワーク設計が重要(小さく始められるが、すぐに大きくなるのでネットワーク性能が追いつかない)、(3)リザーブドインスタンス化の検討(長期利用の場合はコストダウン)、を挙げる。

 特に(1)のバックアップ装置については「テープが使えないためクラウド内でのバックアップ/冗長性を信頼するしかない。AWSも障害で止まることはあるので、万一に備えて物理データセンターや別のクラウドサービスにバックアップすることは必要」と述べた。同社ではデータセンターとAWSをつなぐDirect Connectも2重化している。

 AWSの運用管理については、「物理サーバーの管理はなくなるが、仮想的な設定情報の管理は必要。IAMなどAWS独自の権限設定も多く、ネットワークやセキュリティの知識も重要。今は良いパートナー企業が増えているので外部の力を活用することも有効」と述べた。

 今後はAmazon RedshiftやAmazon Elastic MapReduceなどを活用したビッグデータ分析、さらには他のクラウドも含めた複数クラウド体制の確立も検討する。篠田氏は大手企業によるAWSユーザー会「E-JAWS」のメンバーでもあるが、参加企業が積極的に事例発表や勉強会で情報を開示していることも、大きな助けだという。

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