グーグル流を実践する、勢いのあるスタートアップを3社紹介する。建築業を変えようとグーグルからスピンオフしたフラックスファクトリー、シンガポールの都市交通を変え始めているアーバンエンジンズ、米国の「ユニクロ」も採用した、労務管理のパーコラタだ。
Google X発の事業はどのようなものになるのか。それを予測するのにうってつけの存在がフラックスファクトリーだ(図5)。なぜなら同社は、Google Xが開発した建設業界向けのソフトを事業化するために、グーグルからスピンアウト(独立)した企業だからだ。
フラックスが開発するのは、ビルの建築設計に関わる全ての情報をデジタル化する「BIM(Building Information Modeling)」ツールの一種だ。「3D CADツール」が建物の構造を設計するだけなのに対して、BIMツールでは建材の素材や耐用年数、配管の形状といったデータも取り扱う。
フラックスのツールではさらに、ビルが建つ土地の建築規制や環境規制がデジタル化されている。これまで建築家は、ビルの設計が規制に適合しているかどうか、規制文書を読んで逐次確認していた。
フラックスのニック・チムCEOは、「実際にビルの設計や建設にかかる期間よりも、設計が規制に適合するか確認する期間の方が長いのが実情だった」と語る。
フラックスのツールを使うと、建築家はビルの形状や容積率などが規制に適合しているかどうか、ツールの中で確認できるようになる。ビル建設を承認する自治体も、フラックスのツールを使えば、ビルが規制に適合しているか容易に確認できる。チムCEOは、「ビル建設にまつわる利害関係者の調整時間を短縮することで、建築コストを大幅に削減できる」と語る。
同社は建設会社や自治体などを顧客に想定し、ツールの開発を進めている。2014年には米国テキサス州オースチン市の建築規制を組み込んだツールをテスト公開した。
チムCEOは「グーグル流の考え方の基本は、あらゆる情報がデジタルになれば、アイデアの交換や共有が容易になる、というもの。グーグル流の考え方で建設業界を変えていきたい」と語る。
ARアプリで交通案内
アーバンエンジンズは、グーグルに10年間勤務し「AdSence」や「AdWords」の開発担当バイスプレジデントなどを歴任したシバ・シバクマール氏が起業した(図6)。同社は電車やバスといった都市交通の問題点を分析するクラウドを、自治体や鉄道・バス会社向けに販売している。
同社のツールは、交通機関の利用者データを分析することで、都市交通のボトルネックを見つけ出す。使うデータは2種類ある。
交通機関の利用者がICカードで改札を通過した際の履歴データと、アーバンエンジンズが利用者向けに無償で提供する、AR(拡張現実)を採用した都市交通案内スマホアプリの利用履歴データだ。
同社のスマホアプリは、利用者がスマホのカメラで撮影する周辺の風景に、鉄道やバスの路線や車両の位置を重ね合わせて表示する。利用者は周囲の風景を見ながら、駅やバス停の場所や、自分が乗るべき車両を確認できる。
ICカードの利用履歴は、電車なら電車、バスならバスで完結しており、利用者がどう電車やバスを乗り継いだか、エンド・ツー・エンドで分析できない。同社の交通案内アプリの利用履歴を使うことで、複数の交通機関にまたがる利用状況を把握できるようになる。
アーバンエンジンズのツールは、シンガポール政府などが既に導入済みだ。シンガポール政府はさらに、同社のツールを交通機関の「オフピーク利用」の促進に利用している。これは、利用者がラッシュ時間以外に交通機関を利用すると、利用者のICカードに「ポイント」が貯まるという仕組み。利用者はポイントに応じて、キャッシュバックを受け取れる。ポイントの額をいくらに設定すれば、最も混雑を緩和できるのか、その解析にアーバンエンジンズのツールを使用した。
「都市交通の解析エンジンには、LANやWANなどのネットワークの最適化と同じ手法を使っている」。 同社の共同創業者でチーフサイエンティストを務めるバラジ・プラバカー氏はこう語る。プラバカー氏はスタンフォード大学の教授で、コンピュータネットワークの研究者だ。「私はこれまで、パケットをどう流せばより高速に通信ができるかを研究してきた。その知見を交通ネットワークの最適化に適用した」と語る。プラバカー氏は、「日本の鉄道会社や自治体にも売り込んでいきたい」と意気込む。