8月21日に菅 義偉内閣官房長官が携帯電話料金について「今よりも4割程度下げる余地がある」といった発言をしたことに伴って、携帯電話料金に関する話題が増えてきました。
携帯電話サービスで使用する周波数は、どこの国・地域でも携帯電話事業者などに割り当てるのが普通です。割り当てられた周波数は、理由がない限り使い続けられる一種の既得権益ですので、携帯電話事業者が不当な利益を上げることは制限する必要があるでしょう。そして携帯電話事業者の利益率は、この不況下でも小さくはありません。「競争原理が働いていない」という理解は間違ってはいないと思います。
菅官房長官は8月27日の記者会見で、4割の根拠の1つとして「OECD(経済協力開発機構)の調査で、日本の携帯電話料金はOECD加盟国平均の2倍程度で他の主要国と比べても高い水準にある」ことを挙げていますが、各国でのネットワーク品質やサービス内容などの違いを理解しているようには思えません。
例えば、アメリカの携帯電話サービスと比較してみて、日本の携帯電話料金がそれほど高いようには思えません。AT&Tのポストペイドサービス(日本と同じく、利用した翌月などに支払いをする契約)の「AT&T Unlimited &More」は、1台のみの契約だと70ドル程度からで、契約台数が3台ならば1台当たり49ドルです。ただし日本と違って、映画やテレビの見放題サービスが無料で付属していたり、通話やデータが無制限といったサービスを含んでいたりします。日本の携帯電話料金に、映画やテレビの見放題サービスや通話定額サービスの料金を足せば「高い」という見方はできるでしょう。
携帯電話会社が通信以外のサービスを提供するのは、通信サービスだけでは成長の余地もなく、単なる価格競争になってしまいかねないからです。国内でも、携帯電話会社が様々なサービスを提供することに筆者は反対しません。
支払い額が上昇し続けているのは事実
情報通信白書によると、世帯当たりの「携帯電話料金」は上昇し続けています。その原因は、1人当たりのデータ利用量が増え、データ利用量に応じて料金が上がる料金体系であることではないかと思います。
ガラケーを使っていて用途が通話だけなら、携帯電話事業者によってはデータ通信を従量制にして通話プランだけ契約するということも可能です。ただし多くのケースでは、データパックなどの「データ通信料金」が必須になっています。データ通信料金は、基本的に月間のデータ消費量が多いほど高額になります。
そして総務省の集計では、移動通信事業者5社における1契約当たりの平均トラフィック(つまりデータ消費量)も増え続けています。そのために、結果的に支払い額が増えているわけです。
現時点で支払い額を下げる手立てはないかというと、そんなことはありません。低料金を特徴に掲げるMVNO(仮想移動体通信事業者)の参入により、ユーザーの選択肢は増えています。通話とデータ通信が可能で基本料が毎月1500円前後、データ通信で速度を問題にしなければ基本料が月額数百円といった料金さえ見られます。携帯電話料金が高いと感じたなら、MVNOに移るという選択肢はあるのです。
ただし現状は、ユーザー登録を行うHLR(Home Location Register。3G用)/HSS(Home Subscriber Server。LTE用)を自前で持ち運用しているMVNO(フルMVNO)はIIJなどごく一部だけで、しかも現状は特定のサービスのみに限定されます。多くのMVNO(ライトMVNO)は、携帯電話事業者のネットワークや設備、ユーザー管理などにかなり依存しているのが実情です。その場合はサービス開発の余地が小さく、例えば独自のSIMやeSIMの発行、国際ローミング、通信量の共有、プリペイドといったサービスを実現しにくくなっています。ユーザーの選択肢を増やすという点から見れば、フルMVNO対応のガイドラインの策定など、参入への障壁を下げるような施策はあり得るでしょう。