みなさん、はじめまして。SAS Institute Japanの小笠原と申します。今回から、「オムニチャネル・マーケティング実践術」というテーマで連載を担当します。

 昨今、「オムニチャネル」というキーワードが、Webや新聞、専門誌などの様々な媒体で頻出しており注目度が高くなっています。既に大手コンビニエンスストアチェーンやネットとリアル店舗を有する流通小売企業、銀行など様々な業態で検討や取り組みが始まっています。

 ここでいうオムニチャネルとは、「顧客視点を持った」企業が、顧客とコミュニケーションをすることを目的に、自社が持つ様々な顧客タッチポイント(およびそこから得られる情報)を有機的に結び付けること、そしてそれを生かして活動することです。そして個々の顧客が、商品やサービスを認知してから購入や契約に至るまでの間に、様々なタッチポイント通じて企業ブランドと接触する過程のことを「カスタマージャーニー」と呼んでいます。

 これまでオムニチャネルの概念やカスタマージャーニーの例を紹介する記事は、数多くありました。しかしその取り組みの実態としての、オムニチャネル実現の仕組みや、技術的な側面についての記事はまだ少ないと感じています。

 本連載では、オムニチャネル実現のための戦略や業務、仕組み(システム)を包括的に論じていきます。特に、昨今のマーケティングをはじめとした企業活動では、データの戦略的な活用の巧拙が、企業の競争優位性を左右するともいわれています。そこでオムニチャネルを活用したマーケティング業務シナリオ例を紹介するほか、オムニチャネルで顧客経験価値を最大化するためにキーとなる、「顧客洞察に基づくパーソナライゼーション」や「チャネル横断でのリアルタイム・マーケティング基盤」など、オムニチャネルを実現する上で必須となる構成要素を定義・解説していきます。

 第1回は、先進的な事例を材料に、オムニチャネルの概要を見ていきます。

オムニチャネルが必要とされる背景

 オムニチャネルについて述べる前に、消費者行動に関わる市場の変化を見てみましょう。顧客にどのように対応することが企業に求められるのか、すなわちオムニチャネルとは何であるかが見えてくるためです。

デジタル、特にスマートデバイスの興隆
総務省 平成26年(2014年)版情報通信白書によると、スマートフォンの普及率は62.6%で、特に20歳代では83.7%に上ります。この、「いつでも」「どこでも」情報にアクセスできるデバイスの普及が、商品・サービスの探索、比較、購買に関わる行動を大きく変化させました。

あらゆる世代の取り込み
企業側は、あらゆる世代の取り込みを意識しながら、世代によるチャネル性向の違い、つまり多様なタッチポイントを、適切にカバーすることが求められています。若年層の取り込みを意識した場合、SNSをはじめとしたデジタルチャネルの強化が優先課題として挙がってきます。

差異化の難しい時代
製品について、機能や性能を訴求するだけでは差異化が難しい時代となっています。むしろ、「経験」という感覚的な価値が重視され、新たな差異化ポイントになってきています。経験は、購入する商品やサービスだけでなく、企業のWebや広告、SNS、店頭からアフターフォローまで、顧客が企業ブランドと様々な形で接触することで形成されるものです。企業にとって、顧客とのタッチポイントを軽視できない状況であるといえるでしょう。

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