オフィスのLAN環境を無線に統合する目的は3つに大別できる。(1)LAN設備の運用に費やすコストの削減、(2)社内で執務できる場所を広げる「オフィス内モバイル」環境の整備、(3)スマートフォンやタブレット端末など業務に使うマルチデバイスへの対応――である。
これらを達成した東北電力、シスメックス、伊藤病院という3社の事例を紹介しよう。
東北電力
組織変更でも配線の変更は不要
東北電力は、無線LANの導入でLAN設備の運用・維持費用を削減した。ポイントは「オフィスのレイアウト変更に伴う配線の張り直しが不要になった」ことだ。
無線LANを導入したのは、本支社や営業所、発電所など東北7県にある123拠点で、社員が働く執務スペースはLAN設備をほぼ有線から無線に置き換えた。設置したアクセスポイント(AP)は2800台、接続するノートパソコンは1万3000台に上る(図1)。
最初の導入は2007年で、20013年にはAPなどを最新機種に全面刷新した。採用した新機種は米シスコシステムズの「Aironet 1260」「同1600」などで、通信方式がIEEE 802.11a/gから同11nに切り替わったことで高速化が図れたほか、電波干渉が軽減できカバーエリアも広がったという。設備更新の投資額は工事費を含めて「4億円規模」(情報通信部の村上芳博課長)である。
投資は5年ほどで回収できたという。従来は異動や組織変更のたびに、LANケーブルの張り替え作業が発生し、年間8000万円を費やしていたからだ。まだ使い続けられるLANスイッチを思い切って「廃棄」してでも、無線LANに置き換える積極的な理由になった。