かつて主流だった折り畳み型フィーチャーフォンでは、伸縮式のホイップアンテナが使われていて、アンテナが付いていると一目で分かった。だが最近のスマートフォンはアンテナがきょう体に納まっており、どこにアンテナがあるのか分からない。

 スマホの形は押し並べて薄い板状であり、どの製品も似たり寄ったりだ。ところが内部のアンテナ実装は、スマホメーカーの特徴がはっきりと出る。著しいのがアップルのiPhoneだ。以前、iPhone 6のRF実装ベースバンド実装について考察したが、今回はiPhone 6のアンテナ実装に注目して、アップルの設計思想に迫ってみる。

薄いきょう体にアンテナを内蔵する工夫

 iPhone 6のアンテナについて見る前に、そもそもアンテナとは何か簡単に振り返ってみよう。アンテナは電波を送受信するための素子のこと。素子には電気を通す導体を使う。信号を載せた交流電流をアンテナに流すと、同じ波形の電波を送信する。逆に、信号を載せた電波を受信すると、同じ波形の交流電流が素子に流れる。

 無線通信には、様々な周波数あるいは波長の電波が使われている。最も効率良く電波を送受信できるアンテナのサイズは、電波の波長によって決まる。波長が長い(すなわち周波数が低い)電波なら、長いアンテナが適している。逆に波長が短い(すなわち周波数が高い)電波の場合は、短いアンテナが向く。

図1●半波長ダイポールアンテナ
図1●半波長ダイポールアンテナ
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 例えば、最も基本的な棒状アンテナ(半波長ダイポールアンテナ)を考えてみる。このアンテナは、導体の長さを波長の2分の1にしたときに送受信効率が最も高くなる(図1)。

 例えば、LTEのバンド1で使われている2GHz帯の電波の場合、波長は約150mmとなる。つまり、75mmのアンテナが最適ということになる。こんな長さのアンテナは、薄型・軽量のスマホのきょう体に収まるはずがない。そこで、実際のスマホ用アンテナには、なるべく小さいアンテナ素子で効率良く電波を送受信できるように、アンテナの形状などに工夫が施されている。

きょう体がプラスティックならアンテナを内蔵できる

 最近のスマホで良く使われるのは、例えば「PIFA」(板状逆F型アンテナ)と呼ばれるタイプ。送受信特性をそれほど劣化させずアンテナ素子を薄くコンパクトにできる。一方で、1個のアンテナで複数のバンド(周波数帯)に対応できるマルチバンド化も進んでいる。