圧倒的な当事者意識ーー。これは、リクルートが自ら掲げる企業文化の1つとされている(リクルートの企業文化の紹介ページ)。同社の新事業育成プログラム(参照記事=リクルートの新事業コンテスト、VC流事業育成プログラムに進化)であるRecruit Venturesに応募し、現在それぞれ別のテーマで事業化に向け取り組んでいるリクルートホールディングスの金澤一行氏と高橋ひかり氏も、そうした企業文化を体現している社員たちだ(写真1)。

写真1●リクルートホールディングスの金澤一行氏(左)と高橋ひかり氏(右)
写真1●リクルートホールディングスの金澤一行氏(左)と高橋ひかり氏(右)
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 2人の話を聞いて感じるのが、自らの事業に対する強い思い入れだ。2人とも、コンテストには何度も応募し、落選を繰り返した。それでもめげずに応募し続けたのは、提案事業をライフワークと捉え、周囲を巻き込む意気込みがあったからだと言える。

高齢化社会の課題に「人生をかける」

 金澤氏が現在進めている事業プランは、高齢者が求めるサービスを、周囲が適正な価格で提供してくれるサービスである。UberやAirbnbなど、最近話題の「シェアエコノミー」(空きリソースの取り引き)型サービスの1形態と言える。Recruit Venturesの事業化審査会を通過し、事業開始に向け準備が着々と進められている。

 金澤氏がリクルートに入社する以前に勤務していた民間シンクタンクで目の当たりにしたのが、高齢者向けの公的サービスの現実である。日本では高齢化が一気に進み、高齢者向けサービスの公的支出が増える一方。いつまでも公的資金に頼り続けることが不可能だと感じた金澤氏は、公的資金を使わずに、高齢者が暮らしやすい社会ができる方法を考えていたのだという。

 公式発表前なのでサービス内容の詳細は明かしていないが、地域の移動手段をシェアエコノミー型サービスによって改善していく、というのが、金澤氏のアイデアの中核だ。

 入社以前からの熱い想いを抱いて社内コンテストに臨んだ金澤氏だが、結果は落選。高齢者向けサービスは「市場に任せると持続的なサービスが提供できない。よって、政府や自治体が行うべきサービス」と認識されたのだ。しかし、金澤氏は「最近はフリーミアムモデルなど、マネタイズの方法が多様化している。マネタイズの方法さえうまくやれれば、‟市場の失敗”がなくなるのではないか」と考えていた。そこで「俺が悪いんじゃない、審査側が悪い」と信じて、応募し続けたのだ。