国内屈指の研究組織を保有するNTT。NTT持ち株会社だけで約2500人の研究者を抱え、研究開発費は年間1200億円規模に達する。NTTグループ全体では研究者が約6000人、研究開発費は年間2500億円規模になるという。もちろん、NTTの技術力は世界でも認められており、11月6日には米トムソン・ロイターの「Top 100 グローバル・イノベーター」に4年連続で選ばれた。ただ、最近では「脱・自前主義」を掲げ、研究開発の体制を大きく変えようとしている。NTT持ち株会社で研究企画部門長を長らく務める篠原弘道副社長(写真1)に、現状の評価や課題、今後の展開を聞いた。

(聞き手は榊原 康=日経コミュニケーション


写真1●NTT 代表取締役副社長 研究企画部門長 篠原弘道氏。
写真1●NTT 代表取締役副社長 研究企画部門長 篠原弘道氏。
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現在のR&Dに対する評価は。

 研究開発費は以前に比べて減ってきている。公社時代は全て自分達で開発して完成品まで仕上げる考え方が中心で多額の費用がかかっていたが、最近では市販製品を活用してブラッシュアップするなどにより、効率化が進んできた。とはいえ、今のままで十分とは思っていない。現状、NTT持ち株会社の傘下に様々な研究所があり、NTTグループの個々の事業会社にもR&Dの機能がある。重複開発や抜けがないとは言い切れず、もっと効率的な研究開発をグループで推進していかなければならないと考えている。

これまでも重複は多かったのか。

 全くないとは思わないし、今後も起こり得る。例えばビッグデータの解析技術を考えても、顧客向けのサービスとして提供するケースもあれば、設備の効率的な運用に活用するケースもある。視点は違えど、共通部分が出てくる可能性がある。互いの情報共有を深めて無駄をなくしていく取り組みが欠かせない。研究テーマは、これまで長年手掛けてきたものと、まさしくこれから手掛けていくものに大きく分類できるが、まずは後者から無駄をなくしていきたい。

具体的には、どう進めていく。

 一つは、横串の連携になる。例えばNTT持ち株会社の傘下にある研究所だけでも、クラウド分野とネットワーク分野のそれぞれの研究者が「SDN」に注目している。もちろん、それぞれの立場で異なる面もあるが、最終的には互いに連携して動かしていくことを考えれば、一緒に取り組むべきだろう。時代の変化に合わせて組織を適宜、見直していく考え方もあるが、いくら見直しても「100点満点」はあり得ない。リアルの組織を残しながら、横串のバーチャルな組織で機動的に対応していく。

 もう一つは、外部とのオープンイノベーションの推進になる。「バリューパートナー」というスローガンの通り、NTTグループのビジネスは、我々がメインプレーヤーとなるのではなく、サポーターとしてパートナーと一緒に新しい世界を切り拓いていく方向に変わってきている。今後は外部との共同開発が増えていくと思う。従来は自分達で勝手に利用シーンを定義して提供していたような面があったが、最初から利用者と深く連携しながら一緒に検討していく。

横串のバーチャルな組織には実例があるのか。

 ビッグデータ関連では「機械学習・データ科学センタ」、光回線でペタビットの容量を実現する「イノベイティブフォトニックネットワークセンタ」、様々な光デバイスを大量・高密度に集積する「ナノフォトニクスセンタ」があり、それぞれのセンター長の指示で開発を進めている。SDNやNFVも横串で議論しろと指示した。当社が強みとしている音響系や音声系、言語処理系の技術も横串でつなげば大きなインパクトを出せるだろう。

 技術を磨くという点では、それぞれが一生懸命に頑張れば良い。ただ、リアルな商品やサービスに結び付けていくには横を意識する必要がある。場合によっては技術をグレードダウンして組み合わせることも重要だろう。研究者にはこのギアチェンジが求められる。さらに言えば、研究所だけで最終形の製品やサービスまで作るのは無理がある。事業会社をはじめ、外部とのオープンイノベーションなどを通じて顧客の声を取り入れていくことが必要になる。近年はこのような考え方で進めている。