前回はICT企業、特にシステムインテグレーション(SI)の世界が直面する「下流から上流にさかのぼらなければならない」というニーズに関して、「下流を連続的にさかのぼっていくだけでは上流にはたどりつけない」という点を指摘し、どのような思考の転換が求められるか解説しました。今回は組織運営に影響を与える価値観の相違について掘り下げます。

 組織運営の前提として、「下流の発想」で上流の人材はマネジメントできません。そのため、全く異なる発想が求められます。

 前回述べたように、「下流から上流へ」という重点のシフトは、「組織から個人へ」という価値観のシフトを促します。それはシステム構築を中心とする、いわゆる下流側の仕事は、「量重視の組織力」が上流に比較して重要だからです。逆に上流の仕事は特定個人の能力に依存する傾向が高いということです。

「コーポレートカルチャー」と「プロフェッショナルカルチャー」

 組織の運営で最も重視すべきことの一つが組織文化ですが、ここに「下流から上流へ」のシフトが難しい大きな原因があります。

 SI業界の「上流化」を背景として、「上流」を得意とするコンサルティング会社をSIerが買収するというグローバルな動きが盛んになりました。SIerは、「システム案件は『上流』から押さえなければならない」との危機感と、「そのような人材は自社には少ない」という認識からこのようなM&A(買収・合併)が行われたわけですが、これはある皮肉な結果を招きました。

 それは、買収された会社の中でも「上流の仕事が得意な人」ほど先に会社を去ってしまうということです。買収した会社が最も欲しがっている人材が先に辞めてしまうジレンマがこのようなM&Aには必ずつきまといます。その主要原因が「文化の相違」にあるのです。これは大企業が特定の先進的な技術力を持つベンチャー企業を買収した時に、特定技術を持った「とがった技術者」ほど辞めてしまうのと類似の現象です。