この記事のタイトルを見て「ヘンだ!」と思った読者がたくさんいるはずだ。「ユーザーロックインって、ベンダーロックインの間違いじゃないの?」と不審だろうが、これで正しい。ユーザー企業とITベンダーの関係における大きな問題は、ITベンダーによるユーザー企業のロックインだけではなく、その逆、ユーザー企業によるITベンダーのロックインにもあると私は考えているのだ。

 ユーザー企業のIT部門は、やたらとベンダーロックインを恐れる。ベンダーロックインとは特定のITベンダーに依存しすぎるあまり、他社の製品やサービスへの移行が事実上不可能になり、料金面などでそのITベンダーの言いなりにならざるを得ない状態だ。そうならないために、業務アプリケーションごとに異なるITベンダーに発注するマルチベンダー体制を取るユーザー企業が多い。

 実は、これでベンダーロックインを回避できているのかと問うのも、興味深い問題である。いくらマルチベンダー体制を取ろうが、個々のアプリケーションごとに、特定のITベンダーに事実上ロックインされているケースが圧倒的に多いからだ。結局のところ、開発や保守を丸投げしている以上、そのITベンダー無しでは業務は回らない(関連記事:ベンダーロックインを怖がり、マルチベンダー体制を維持する愚)。

 だが、ITベンダーが客を選べず、隷属状態に置かれるユーザーロックインのほうが、むしろいろいろと問題が大きい。極めて優秀なIT部門にITベンダーが必死で従っているならともかく、ユーザー企業自体は立派だがIT部門はボンクラ、そんな客にITベンダーが隷属する不条理は、いったいどうしたことか。カネ払いが良い客かと思ったら、実はそうでもないから不思議な話だ。

 東京海上日動火災保険のIT部隊のトップから情報サービス産業協会(JISA)のトップに転じた横塚裕志さんとの「極言暴論対談!」では、ユーザー企業とITベンダーの関係の奇妙さや、その問題点に多くの時間を割いた。その対談にインスパイアされて書くことにした、この極言暴論スペシャルの最終回では、ユーザーロックインをキーワードにこの問題に切り込んでみることにする。