大手製造業や大手小売りなど強い企業が納品業者の数を絞り込むのを「ベンダー選別」と呼ぶ。同一種類の部品や商品を多数のベンダーから仕入れていたのをやめて、1社、あるいは2~3社のベンダーへの大量発注に切り替える。これにより、絞り込んだベンダーから価格面などで大幅な譲歩を引き出すわけだ。

 こうしたベンダー選別で有名なのは、1999年のいわゆる「ゴーン・ショック」。日産自動車が鋼材調達先を絞り込んだことで、日本の鉄鋼業界の再編にまでつながった。ベンダー側としては重要な顧客を失うか、過酷なコスト削減要求を受け入れるかという二者択一を迫られる厳しいものだが、顧客側からすると競争を勝ち抜くための当然の施策である。

 そう言えば国産コンピュータメーカーなど日本の大手ITベンダーも、不況期にはハードウエアの部品メーカーだけでなく、下請けの受託ソフトウエア開発会社の選別を行ってきた。理屈は他の業界と全く同じで、1社当たりに発注するSI案件の下請け開発や組み込みソフト開発などのボリュームを増やす代わりに、人月単価の引き下げを迫ったわけだ。

 ところが、こうした商取引の常識と正反対のことを言う人たちがいる。大手企業のIT部門である。中堅中小企業ならともかく、大手企業なのだからIT部門もバイイングパワーを振りかざして顧客の論理を貫けばよいはずなのに、ベンダー選別に動くことはない。むしろ取引のあるITベンダーが減ることを、過剰なくらい怖れている。

 そう、IT部門が怖れるのはベンダーロックインである。彼らの理屈では、ITベンダーの数が減るのは、自らが主体的にITベンダーを選別するのではなく、特定のITベンダーにロックインされる(囲い込まれる)ことと捉える。その結果、特定のITベンダーから高い買い物をすること強いられるという。はっきり言って「アホ」である。そんなアホな理屈がIT部門では長くまかり通ってきた。