この連載では、先が見えない「暗闇プロジェクト」を任された場合に参考になりそうなヒントやノウハウを紹介している。前々回(難しい会議でツッコミをかわす三つのセオリー)と前回(安易な「問い」がプロジェクトの破綻を招く)では、会議をうまく回すためのテクニックを紹介した。

 会議の回し方と並んでやっかいなのは、提案の仕方である。事実に基づいており、理屈が通っているかといって、相手が提案を受け入れてくれるとは限らない。まして「暗闇」の状態で提案をうまく通すには、テクニックを駆使する必要がある。そのための三つのセオリーを紹介しよう。

セオリー1
相手の好みや価値観を無視した説明は逆効果

 ユーザー企業A社が進めているシステム構築プロジェクトでの月例会議当日。ベンダー側でプロジェクトマネジャーを務めるN氏は、進捗遅れの説明をしなければならない。いつもは姿を見せないA社の部長も参加するそうで、N氏の上司はそわそわしている。N氏の説明に不備があれば、自分にも雷が落ちてくることが分かっているからだ。

 だが当のN氏は平然としていた。スケジュールが遅延した原因は判明しており、対策も講じた。プロジェクトの完了までにはかなりの余裕があり、大勢にはほとんど影響がないと分かっていたからだ。

 N氏がロジカルシンキングを学んでおり、自分の論理的な思考にそこそこの自信を持っていたことも一因である。プロジェクトでは常に論理的で合理的な判断を下すよう努めてきたし、人に何かを説明する際には事実の確認に始まり、一つひとつ順序立ててしっかりとした構成を取るよう意識している。

 同氏のロジカルシンキング力は社内でも評価を得ており、社内研修の講師を務めたりもしている。しっかりと順序立てて説明していけば、A社はきっと理解してくれるはず。N氏は何の不安も抱いていなかった。

「で、結論は?」

 月例会議の場で、N氏はスケジュール遅延に関する説明を始めた。前振りとして、今回のプロジェクトの意義や計画の概要を簡単に説明した。本来は省略してもよい内容だったが、論理的な説明の基盤となる部分なので、前置き程度でも入れることにこだわった。