前回(難しい会議でツッコミをかわす三つのセオリー)に続き、先が見えない「暗闇プロジェクト」で会議をうまく回すためのセオリーを取り上げる。

セオリー1
「問い」を安易に考えてはいけない

 ユーザー企業E社でのシステム要件定義の場面。システム部門のメンバーが集まってアプリケーションやインフラの設計方針を検討している。その最中に新人がこんな質問を発した。

「このインタフェースは標準に準拠すべきでしょうか?」。

 標準への対応は避けられないテーマであり、新人にとっては素朴な疑問である。ところが、この問いに全員が凍りついた。前回のプロジェクトの記憶がよみがえったからだ。

 前回のプロジェクトでは、このテーマを巡って大激論が交わされた。

「標準が大切だからといって、いくらでもお金と労力を注ぎ込めばよいというわけではない。いったい、標準化でどんな効果が得られたというのだ。最初言われていたメリットは一つも実現されていないじゃないか」

「世の中の流れや国の方針を見てみれば、標準化が必要なのは一目瞭然だ。現時点で足並みがそろっていないからといって、ここで標準を採用しないのは自殺行為ではないか」

 メンバーはみな会社のことを真剣に考えていたのは間違いない。だからこそ双方とも一歩も引かない。そして感情的な対立に発展し、チームの人間関係にひびが入ってしまったのである。

 今回のプロジェクトでも標準への対応は検討せざるを得ない。だがプロジェクトマネジャーは前回の経験を踏まえ、事を急がずに、議論が穏やかに進むよう様々な環境を入念に整備してから検討に入るつもりだった。

 それが新人の一言で、メンバー全員が心の準備をする余裕もなく、いきなり重たい議論の土俵に放り込まれてしまったのだ。マネジャーは頭を抱えた。