ユーザー企業のIT部門の多くは「発注者責任」を果たせていないし、そもそもそのことに無自覚だ。その結果、発注のQCD(品質、料金、期日)という3つの領域で大きな問題を引き起こす。

 この特集ではこれまで、発注のQとCにおける問題点についてみてきたが、最終回の今回は発注のD(期日)、つまり特集の第1回の冒頭で紹介した開発着手などのスケジュールを巡る問題に焦点を当てる。そして最後に、ユーザー企業のIT部門に求められる発注者責任の自覚について言及する。

開発着手の延期がトラブル生む

 開発スケジュール面での問題は、ユーザー企業のIT部門とITベンダーの双方にとって、いわゆる“あるある話”だと思う。だが、ユーザー企業にとっては“軽い気持ち”で伝えた通告で、一方のITベンダーにとってはパニックになるような事態。両者の間でその違いは大きい。

 「開発着手の直前になって申し訳ないが、今回のプロジェクトは一時延期することになった。今期の投資案件の全社的見直しのため、経営サイドから待ったがかかってね。ただ、このプロジェクトは重要案件だから、数カ月後には着手できると思うので、少し待ってくれたまえ」。ユーザー企業でシステム部長やマネジャーを長く務める人なら、一度や二度はITベンダーにそう通告した経験があるだろう。

 そうした通告を受けたITベンダーがどのような状態になるかについては、複数のITベンダーの営業担当者の経験談を基に、特集の第1回で次のように描いた。「ITベンダーの営業担当者は、ユーザー企業のシステム部長からそう通告されて血の気が引くのを感じた。このプロジェクトのために50人の技術者で開発体制を組んでいる。開発着手が1カ月延びるだけで、6000万円ほど売り上げが吹き飛ぶ計算だ」。