ユーザー企業には「発注者責任」がある。ところが最近、この責任が希薄なばかりに、外注したシステム開発が頓挫したり、ITベンダーとのトラブルにつながったりするケースが増えている。今回、匿名を条件にITベンダーから「こんな発注は勘弁してほしい」との本音を聞いた。プロジェクトを成功させるために、ITベンダーの声に耳を傾けてほしい。

 あらかじめ断っておくが、この特集は日経コンピュータの2008年6月15日号に掲載した記事をベースにしている。つまり、オリジナルは4年半前に書いたものだ。だが、そのオリジナルをいま読み返しても、全く古さは感じない。ITproのコラム「極言暴論!」で最近、大きな反響のあった記事とも深く関わる話なので、一部を加筆・修正して掲載することにした(関連記事:法外な開発料金の見積もり根拠、「客には絶対に言えません」)。

ITベンダーがパニックに陥った顧客の暴挙

 「開発着手の1週間前になって本当に申し訳ないが、今回のプロジェクトは一時延期することになった。今期の投資案件の全社的見直しのため、経営サイドから待ったがかかってね。ただ、このプロジェクトは重要案件だから、数カ月後には着手できると思うので、少し待ってくれたまえ」。

 準大手のITベンダーの営業担当者は、ユーザー企業のシステム部長からそう通告されて血の気が引くのを感じた。このプロジェクトのために50人の技術者で開発体制を組んでいる。開発着手が1カ月延びるだけで、6000万円ほど売り上げが吹き飛ぶ計算だ。「いったい、どうしてくれるんだ」と、営業担当者は心の中でうめいた。

 この話は、複数のITベンダーの営業担当者の経験談を基に構成した。1週間前に通告というのは極端な例だが、この手のケースはよくある話だ。実際、心当たりのあるユーザー企業の読者も多いことだろう。ユーザー企業からすればやむを得ない事情によるものだが、これでITベンダーはパニックに陥る。後で述べるが、その結果、遅れて着手したプロジェクトが失敗するリスクに直面することになる。