通 説 (5) ERPの採用は有用

 各企業が独自の方法で会計処理をしている場合、その処理が妥当であることを証明するために、多くの証拠や説明が必要になる。これはシステムでも同じだ。

 この点で、「ERPパッケージを採用するのは有用」と見る向きが強い。ERPパッケージを利用すると、「一般に用いられている会計原則などに沿って処理している」ことの証明につながるため、内部統制の整備を支援できるからだ。「“ベスト・プラクティス”にのっとっていると考えれば、監査の手間が省けて助かる」。監査法人トーマツの久保恵一代表社員はこう話す。

 内部統制を整備する際に、ERPパッケージが有用と言えるのは、「そもそも内部統制の整備を支援する機能を備えている」(SAPジャパン ソリューションマーケティング本部の大久保尚氏)ことが大きい(図6)。

図6●内部統制を確立する際に、ERPパッケージ導入のメリットは大きい
図6●内部統制を確立する際に、ERPパッケージ導入のメリットは大きい
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 まず、会計・販売・購買といった異なるモジュール間でデータの二重入力や不整合が発生しないような仕組みを備えている。これによって、データが正確であることを保証できる。これは、SAPジャパンや日本オラクルのような外資系の製品であれ、富士通やオービックのような国産製品であれ、ほとんどのERPパッケージに共通する。アプリケーションへのアクセス・ログの取得やアクセス管理の機能も備えている製品が多い。

 「監査支援」も日本版SOX法対応に有効な機能だ。SAPジャパンや富士通などの製品が提供している。監査支援機能は、監査人向けに伝票の変更履歴や仕訳の経過一覧などを表示する。手作業の監査よりも工数が減り、監査費用を抑えられるメリットがある。ただし、監査人向けのERPのライセンスは、ユーザー企業側で用意する。

 ERPパッケージ自体が持つ機能のほかに、ベンダーやパートナーが日本版SOX法対応プロジェクトを支援する監査用文書を提供するケースも多い。ERPパッケージが持つ標準の業務フロー図や、RCM(リスク・コントロール・マトリックス)などの「テンプレート(ひな型)」といったものだ。

「設定を正しくする」サービスも

 もちろん、こうしたERPパッケージのメリットを生かすかどうかは、ユーザー企業の利用方法次第だ。SAPジャパンの大久保氏は、「日本企業がこれまで『使いづらい』といって、わざと利用しないようパラメータを設定していた機能に、内部統制に有効なものが多い」と話す。上長の承認なしに伝票を訂正できるようにするアドオン(追加開発)ソフトなどが典型的な例だ。あずさ監査法人本部理事の桜井憲二 IT監査部長は、「ERPを導入している場合は、どのように内部統制を確立しているかをパラメータ設定を見て確認する」と話す。

 最近では、すでにERPパッケージを導入している企業向けに「内部統制が有効に機能す るように、パラメータ設定を変更するプロジェクトも数件出てきた」(プロティビティの豊倉マネージングディレクター)という。SAPジャパンは、パートナー向けに「内部統制が有効に機能するパラメータ設定の方法」を教える講座と認定制度を昨年から用意。延べ約550人が講座を受け、50人が認定されている。