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昨年12月に金融庁が公表した「基準案」や今年6月に成立した金融商品取引法を受け、IT業界では日本版SOX法関連の巨大IT市場を巡る動きが加速している。ITベンダーやコンサルティング会社の狂想曲ぶりをレポートする。

 日本版SOX法は「勘定奉行」にお任せあれぃ―。オービックビジネスコンサルタント(OBC)は過去最大の頻度で、歌舞伎役者が見えを切るテレビCMを流している。8月には19~23時を中心に、昨年の1.5倍の頻度で放映。お盆期間はほぼ1日中CMを打った。「当社のERPパッケージ(統合業務パッケージ)を売り込むのに、日本版SOX法(J-SOX)は絶好の機会」と、営業企画室の高村浩之氏は強調する。同社が今年投じる広告宣伝費は6億~7億円に達するとみられる。

 OBCのCMは、日本版SOX法を巡る“狂想曲”の象徴と言える。上場企業約3900社に対して、2008年4月以降に始まる事業年度から内部統制報告書の作成と監査を義務付ける「金融商品取引法」が6月7日に成立。昨年12月に金融庁企業会計審議会の内部統制部会が公表した「基準案(財務報告にかかる内部統制の評価および監査の基準案)」と併せ、日本版SOX法の姿が明確になってきた。いま市場は「2000年問題」以来のブームに沸き返っている。

 5月から8月中旬までに出版された、日本版SOX法に関連する書籍は約30冊。同法に関するセミナーも、7月だけで延べ150回以上開催された。

 OBCに限らず、ベンダーの期待は大きい。内部統制の仕組み作りにITが欠かせないことに加え、日本版SOX法では内部統制の基本的要素として「ITへの対応」を挙げているからだ。IDCジャパンによれば、08年までの日本版SOX法関連のIT市場は7000億円。連結対象会社を含めると対象が数万社に上り、しかも同法への対応は全社的かつ継続的な取り組みなので、大きな波及効果も見込める。

 実際、法案成立から2カ月の間に、日本版SOX法関連の製品およびサービスに関して55件が発表された。ほぼ毎日のように、関連製品やサービスが発表されていることになる。中には、メール・ソフトなど「なぜSOX法対応?」と首をかしげたくなる製品もある。

 一方で、日本版SOX法に関するさまざまな説が飛び交う。例えば、同法対応のガイドライン「実施基準」に関して、「登場を待って対応すればよい」と見る向きもあれば、「登場を待たずに対応すべき」との声もある。実施基準の草案は早ければ10月に公開される。ほかにも「億単位の費用を覚悟すべき」、「コンサルタント不足がすでに深刻」などの話が、まことしやかに流れる。「一律5億円をユーザー企業に提示するコンサルティング会社がある」、「あの企業はSOX法対策に100億円以上を投じた」などの“うわさ”にも事欠かない。

150社が繰り広げる「残り1年半」の攻防

 IDCジャパンの調査では、日本版SOX法関連のIT投資額は6950億円。日本版SOX法が話題になり始めた2005年から適用年度に当たる08年までの合計である(図1)。これだけを見ると、決して巨大な市場とは言えない。だが、日本版SOX法対応を支援する製品やサービスを提供するITベンダーは、「それ以上の波及効果が期待できる」と異口同音に話す。

図1●日本版SOX法の成立からの流れ
図1●日本版SOX法の成立からの流れ
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 「風が吹けば桶屋がもうかる」と考えるベンダーも少なくない。富士通はその1社。コンサルティング事業本部の小村元プリンシパルコンサルタントは、日本版SOX法対応のコンサルティング・サービスを同社が提供する理由について、こう表現する。「サービスによる売り上げは、大きい案件で1件当たり数億円程度。だが、日本版SOX法対応が一段落する09年3月期以降に、その企業で基幹システムの再構築など大型案件が見込める。10~100倍のIT投資につながるはずだ」(同)。

ERPからスキャナまで「関連製品」

 「日本版SOX法市場」に参入しているITベンダーは、製品ベンダーやコンサルティング会社、システム・インテグレータなど150社を超える。実施基準の公開を間近にひかえ、各社の活動はヒートアップする一方だ。

 法案が成立した6月7日から8月中旬までの2カ月あまりで発表された、日本版SOX法関連のIT製品とサービスは30以上ある(表1)。製品を見ると、多いのはセキュリティ関連のソフトウエアで27製品中16製品が該当する。電子メールやアプリケーションへのアクセス・ログの保存ソフト、ICカードを利用した入退出管理システムなどが含まれる。ほかに、ERPパッケージや統合開発環境、BPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)ソフト、さらにストレージやスキャナなどのハードウエアも関連製品として販売されている。

表1●今年6月中旬から8月中旬に発表された主な「日本版SOX法」関連IT製品・サービス
表1●今年6月中旬から8月中旬に発表された主な「日本版SOX法」関連IT製品・サービス
ニュースリリースで「日本版SOX法」という用語を挙げているものをピックアップした
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 意外なことに、この中で「日本版SOX法対応」を明にうたっているのは4製品のみ。多くは、「職務や権限に応じたアクセス管理は、日本版SOX法をはじめとする内部統制の要素に不可欠」という一文を入れたり、個人情報保護法などと併記して「セキュリティ対策が重要」とアピールするなど、遠回しな言い方で対応に役立つことを表している。説明が「日本版SOX法に対応した」の一言しかない製品もある。

選択肢から外されるのを防ぐ

 テレビCMで「日本版SOX法はお任せあれ」と打ち出しているOBCの製品は、どのように対応しているのか。営業本部ERPソリューション推進室の岡部貴弘室長は、同社の中堅企業向けERPパッケージ「奉行 新ERP」の現行版に関して、「日本版SOX法を意識した機能を新たに盛り込んだわけではない」と明かす。

 にもかかわらず、同社が日本版SOX法対応を打ち出す理由は、「中堅企業が製品を選ぶ際に、選択肢から外されるのを防ぐためだ」(同)。すでに個人事業主や中小企業では、CMの効果で、「導入しやすい、親しみやすいというイメージが定着している」(同)。ところが、日本版SOX法の対象となる中堅企業からは、「内部統制の機能が弱いと見なされているようだ」(同)。

 そこでCMで日本版SOX法対応と銘打つことで、アプリケーションへのアクセス・ログの取得機能や、業務プロセスの一貫性など、内部統制の整備に役立つ機能を備えていることをアピールしているという。秋以降に発売予定の奉行 新ERP次期版では、(1)会計、販売などモジュールごとのデータベースを物理的に統合する(現行版では論理的に統合)、(2)アクセス管理機能を強化し、画面単位でアクセス権限を付与できるようにするなど、内部統制を意識した強化を図る計画だ。

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