今回は、会社の設立と組織再編に関する規定について取り上げる。設立と組織再編は、他の項目と比べて大きく規制緩和が進められ、より容易に起業や企業買収を行えるように法整備がなされた。本稿では,そのうち特に重要な改正点について解説する。

 最初に、会社の設立にかかわる規制緩和について見て行く。設立に際しての出資に関する事項では、実務に与える影響の大きい改正事項として、まず「最低資本金規制の撤廃」が挙げられる。

 旧商法では、株式会社の資本金の金額は1000万円を下回ってはならない、とされていた(旧商法168条の4)が、会社法ではこの規制が撤廃された。その理由としては、最低資本金制度が規定された1990年(平成2年)の商法改正後の経済情勢の変化や、他国における立法動向、最近における起業促進の必要性の増大などを挙げることができる。

 その一方で、最低資本金規制は「債権者と株主の利益調整」という機能を持っており、そこに一定の合理性が認められることも事実である。そこで会社法では、最低資本金制度は撤廃するものの、有限会社の最低資本金額である300万円の純資産額規制を維持し、純資産が300万円を下回る場合には剰余金の配当ができないと定めている(詳細は本連載の第6回を参照)。

 最低資本金制度はベンチャー企業の起業に支障を来たすことから、これまでも特別法により “1円起業”を可能とする、といった手当てがされていた。会社法により最低資本金制度が撤廃されたことで、より積極的に起業が促進されることとなった。今後、起業がいっそう活発になることが予想される。

現物出資・財産引き受けについて

 会社法における起業時の重要な規制緩和に、「現物出資」などに関する法改正がある。

 会社成立時には資金が不足していることが多いため、金銭の代わりに必要な財産や特許等の知的財産権を出資して(これを「現物出資」と呼ぶ)会社を設立したいという要請が非常に強い。しかし旧商法では、現物出資や、会社設立に際して会社が株式引受人から財産を譲り受ける「財産引き受け」について、(1)裁判所の選任する検査役の調査を受けなければならない、(2)出資等をした財産の価格が定款で定めた価格を下回る場合の差額について、発起人および取締役が無過失責任を負う、といった極めて厳格な規制がなされていた。

 そのため、実際にはほとんど行われていなかったのが実情である。筆者が起業・設立に関わった事案においても、このような要望は非常に強い反面、法制度の壁は厚く、そのギャップに起業者が悩んでいるケースが多かった。

 そこで会社法では、このような要望に応えるための見直しを行っている。すなわち、旧商法では「設立時の資本金の5分の1以下、かつ、500万円以下」の財産について検査役の調査を免除しているが、資本金に対する比率の要件を廃止し、500万円以下の財産についてはすべて検査役の調査を不要とした(会社法33条10項1号)。また、市場価格のある有価証券についても、市場価格を超えない場合には、検査役の調査を不要とした(会社法33条10項2号)。こうした制度の撤廃は、起業時における重要な規制緩和といえよう。「事後設立規制」(会社設立後2年以内に重要な財産や営業を会社が譲り受ける際に、株主総会特別決議や裁判所の選任する検査役の調査を要求する規制)における検査役の調査制度の撤廃なども、企業時の規制緩和として重要である。

 このほか会社法では、会社設立時の発起人の責任に関する規制の撤廃や、発起設立における「払込金保管証明制度」の廃止、設立過程における定款変更についての規制緩和あるいは明確化など、重要な改正を施している。基本的には、より利用しやすい方向での改正がなされており、利用者側に立った視点での法整備という会社法の趣旨を反映してと言えよう。

組織再編に関する規制緩和

 旧商法ではこの10年間、M&A(企業の合併と買収)や、企業法制のための大きな改正が行われてきた。具体的には、1997年(平成9年)に合併法制の改正、1999年(平成11年)には株式交換・株式移転の創設が、2000年(平成12年)には株式分割法制が創設された。

 これらの改正は、各企業がバブル崩壊後に迫られた不採算部門の廃止や切り離し、あるいは、他社との合併といった事業再構築の要請に応えるために行われた法整備であった。会社法は、こうした旧商法の流れを受け、さらに海外との企業再編やより積極的なM&Aを可能とするために、組織再編に関する規制緩和をいっそう進めている。これらの改正は詳細な手続きを含めて多岐にわたるが、なかでも社会的に大きな注目を集めた「合併対価の柔軟化」と「簡易な手続きの拡大」を中心に説明していこう。

(1)合併対価の柔軟化
 旧商法では、合併によって消滅する会社の株主や、会社分割によって分割される会社の株主などに対して交付できる財産は原則として、「合併では存続する会社(吸収する側の会社)、会社分割では分割された会社を承継する会社など、組織再編によって存続する会社の株式に限定される」ということを前提に規律が設けられていた。

 これに対して会社法では、消滅する会社の株主に対して、存続会社の株式に限定することなく、金銭その他の財産を交付することや、対価を交付しないことができる(従来は対価として株式を提供することが必要だった)とされている(会社法749条1項2号、751条1項3号、758条4号、760条5号、768条1項2号、770条1項3号)。具体的には、「財産」と評価できるものであれば足り、それ以外には特に制限がないことから、存続会社の株式、新株予約権、社債もしくは新株予約権付社債の他、金銭や親会社の株式等が対価として利用されることが考えられている。

 このような合併対価の柔軟化は、昨今の企業買収案件の増加や国際的な取引の増加を背景に、日本経済団体連合会(経団連)からの強い要望がなされ、法制審議会での議論を通じて実現したものである。この改正により、買収する側の会社が自らの株式を交付することなく、金銭などを支払うことにより企業買収をすることが可能となった。これにより、企業買収を積極的に手がけつつも、持ち株比率や完全親会社としての地位を維持しておきたい、といったニーズに応えることができるようになったわけである。

 もっとも、法案成立の直前になって、上記改正は敵対的買収を増加させるのではないかとの懸念が生じ、施行が延期された。具体的には、上記を除く部分の施行日の1年後から施行されることになったため、実際に利用されるのは2007年5月1日以降となる。