会社法では、会計帳簿などの計算書類や利益配当などに関する規定が大きく改正された。改正点は多岐にわたり、非常に複雑である。また、技術的・専門的な改正も多い。そこで本稿では、重要な改正点を中心に解説することにする。

 会社法では、「会社が、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならないこと」について、明文で規定を設けている(会社法432条1項)。旧商法において「商業帳簿ノ作成ニ関スル規定ノ解釈ニ付テハ公正ナル会計慣行ヲ斟酌スベシ」としていた規定を取り入れたものだ。

 この条文のポイントは、会計帳簿を「適時に」作成することを明文で求めている点である。これについて立法者は、「適時性を欠いた記帳では、人為的に数字を調整する、といった不正が行われる可能性がある。そのため、不正が行われかねない慣行を戒めるために明文で規定した」と説明している。

 会計帳簿は、株主らステークホルダーへの情報開示(ディスクロージャー)の基礎となる資料である。昨今、情報の適時開示が強く求められている以上、開示情報の基礎資料を適時に作成しなければならないことは当然といえよう。

計算書類の位置付けと内容が変わる

 会社法においては、そもそも計算書類の位置づけを旧商法とは変えている。そのため計算書類の内容が異なることに注意が必要である。

 旧商法では、条文に「計算書類」の用語は存在しなかったが、通例として、貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益処分案(損失処理案)を指して「計算書類」と称することが多かった。これらの計算書類は、事業年度の「決算の確定」をしたうえで「利益の配当」をするための書類であり、毎年1回開催される定時株主総会では議題として提示し、株主の決議をとって利益の配当が行われていた。

 これに対して会社法では、後述するように1年に何回でも利益配当をすることが可能となったこともあり、毎事業年度の「決算の確定」と「利益の配当」とが必ずしもリンクしなくなった。つまり、従来は会社が当期に生じた利益の配当あるいは損失の処理について、株主の承認決議を受けるために株主総会に提出する「利益処分案」の中に盛り込まれていた事項を、会社法では決算の確定とは無関係に随時行うことができるとしているため、そもそも利益処分案が存在しないのである。

 具体的には、従来の利益処分案の内容は、剰余金の配当(会社法454条、剰余金の意味については後述するが、ここでは利益配当をイメージしてもらえればよい)、役員の賞与(会社法361条1項)、資本の部の計数変動(会社法448条、450条~452条)などに分解される。そして、それぞれ「剰余金配当議案」、「役員賞与議案」、「準備金減少議案又は剰余金処分議案」といった個別の議案として、(定時総会における利益処分という形だけではなく)株主総会で随時、決議したうえで実施できるのである。

 また会社法では、営業報告書に該当する「事業報告」(会社法435条2項 会社施行規則118条)は、計算書類から除外された。ディスクロージャー強化のために、内容が多岐にわたることとなった結果、必ずしも計算に関するものとはいえなくなったからである。

 以上の結果、会社法では「計算書類」の用語を、(1)貸借対照表、(2)損益計算書、(3)株主資本等変動計算書、(4)個別注記表、と定義することとなった(会社法435条2項 会社計算規則91条2項)。(3)の株主資本等変動計算書とは、主として株主資本の各項目の変動を示す計算書のことであり、株主資本(資本金や資本剰余金など)や新株予約権などの項目ごとに作成される。この計算書は旧商法では存在しなかったが、会社法では1年に何回でも剰余金の配当ができることや、後述するように剰余金の配当などが取締役会に委ねられる場合があり、資本の変動が従来よりも活発になることが予想されることから、導入されたものである。

 まとめると、計算書類に関する改正点は次の2つのポイントである。

・会社法では利益配当が1年に何回でもできるようになったため、毎事業年度の計算書類の作成と利益配当はリンクしなくなった。そのため、利益処分案を計算書類の内容に含めていない。従来、利益処分案の内容とされていた事項は、それぞれの手続きに従い、個別に随時なし得るものとしている。

・会社法では、取締役会による剰余金配当など、株主資本の変動の機会が増加することから、株主資本等変動計算書をその内容に入れている。

用語にも注意が必要

 会社法では、上記のような「計算書類」のほかに、「計算関係書類」という定義も存在する(会社計算規則2条3項3号)。これは、(1)会社成立の日における貸借対照表、(2)各事業年度に係る計算書類およびその附属明細書、(3)臨時計算書類、(4)連結計算書類、のことである。会社法では「計算書類等」という言葉も登場するが、これは計算書類(貸借対照表、損益計算書、株主持分変動計算書)に、事業報告と附属明細書を含めたものをいう。

 そのほか、計算書類の貸借対照表のうち、旧商法で「資本の部」とされていた項目は、会社法では「純資産の部」と表現されるようになった。また後述するように、利益の配当に関しては「剰余金」という用語が使用されるが、これとは別に「分配可能額」という用語も存在する。

 このように会社法では、計算関係の規定に紛らわしい用語や耳慣れない用語が存在するので、注意が必要である。ちなみに、計算関係書類については、日本語以外の言語で表示することが不当でない場合には英語などの表示が許容された。会社法の国際化を象徴する改正といえよう(会社計算規則89条2項ただし書き)。