総務省は、「自治体EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)事業」のモデル事業として埼玉県川口市などで進めてきた取り組みの詳細を、3月をめどに公開する。

 EAとは、企業や官公庁などで組織全体を通じた業務やシステムの最適化を図るための考え方である。現在行われている事務の流れを把握(現状分析:AsIs)し、また目的を達成するための理想像を作り出す(あるべき姿を検討:ToBe)。そして、現状からその目標に近づくするため解決すべき課題はどのようなもので、どう解決すればよいかの「次期参照モデル」を模索する。

 総務省自治行政局自治政策課の牧慎太郎情報政策企画官は「地方自治体は、その業務の内容が地方自治法により規定されており、行う業務の内容はほぼ似ている。しかし、実際は自治体ごとにバラバラなワークフローで動いている。ベンダーにEAをまかせる自治体もあるが、それではベンダーのパッケージに合わせた業務最適化につながる可能性がある。一つの自治体がモデル事業として職員自らの力で自治体EAを行えば、その過程はほかの自治体の業務改善や業務標準化のヒントになる。業務が標準化できれば、業務用システムの仕様も1ベンダーによらずに標準化できる。そうなれば総務省が進めている自治体システムの共同アウトソーシング事業も現実味を帯びてくる」と語る。

 川口市のEAへの取り組みは、2005年9月5日の岡村幸四郎市長による基本方針の提示から始まった。9月28日からは青山学院大学大学院会計プロフェッショナル研究科の松尾明教授を顧問に、デュオシステムズ、三菱総合研究所、みずほ情報総研がプロジェクト・マネジメント・オフィス業務を請け負い、その指導の下に川口市の部長・課長級職員とコンサルティングやベンダーなど15社からなる基幹業務と内部管理業務の各EA策定チームが刷新化の方向性を策定。10月半ばからは川口市の職員とEA策定チームが共同で2005年11月末までに現状業務とシステムの分析(AsIs)を行った。今後は、12月中に理想像(ToBe)の検討を行い、2006年1月から2月にかけて具体的な業務やシステム刷新の検討を行う。その成果物として、自治体におけるEA推進、業務刷新のガイドラインを2005年度内に策定する予定だ。

 総務省は2006年1月からは川口市(人口約46万人)の現状分析を基に、人口規模の異なる北九州市(人口約100万人)と岩手県水沢市(人口約 6万人)でも現状分析を行う。これらの結果は、2006年3月までに総務省が立ち上げる自治体EA事業のWebサイトで公開する。

 ここでは、EA策定のガイドラインだけでなく、川口市の業務刷新までのやり取りの記録――具体的には、業務説明書、機能分析表(DMM)、機能情報関連図(DFD)、作業日誌を公開する。そのほか、水沢市、北九州市の現状分析までのやり取りも公開する。例えば、川口市のやり取りの記録の作業日誌では、川口市の強い部分と弱い部分を分析する「SWOT分析」において、「W(弱み)のカードを課長さんがおそるおそる確認しています」などといった、EA策定作業の進行状況をリアルに記録した報告書が公開される予定だ。

 「EAという言葉やAsIsモデルやToBeモデルなどという言葉が出ても、ピンとこない自治体の職員も多い。ガイドラインの公開だけでなく、実際の職員とベンダーとコンサルタントがどのような作業をしてきたか、その記録をできるだけ生々しく公開することで、自治体職員に対する説得力を持つのではないか」(牧企画官)。さらに総務省では、3市の現状分析の成果も踏まえて、共同アウトソーシング事業に向けた“全国標準版”のToBe像を構築する。(塗谷隆弘)