日立総合計画研究所・編

これまで、多くの政府・地方自治体では、部門ごとに個別にシステム構築を進めてきました。その結果、プラットフォーム、データベース、開発手法などの異なる様々なシステムが組織内に無秩序に混在し、システムの全体像を把握することが困難となっています。また、部門ごとに業務やシステムの最適化を推し進めることによって、組織全体で業務やシステムの重複が発生することも問題となっています。

 このような状況を改善するには、初めから部門ごとの対応を行うのでなく、組織全体の視点から業務やシステムの設計図を作成した上で、それに基づいて業務やシステムを構築するという発想が必要となります。エンタープライズ・アーキテクチャ(Enterprise Architecture)は、その実現ための手法として注目を集めています。

■エンタープライズ・アーキテクチャのフレームワーク
エンタープライズ・アーキテクチャのフレームワーク
資料:ITアソシエイト協議会資料より作成

 一般に、エンタープライズ・アーキテクチャは、次の4層からなるモデルを使用します(上図参照)
  1. 組織の政策・業務を体系化した「政策・業務体系(Business Architecture)」
  2. 政策・業務に必要となるデータの構成やデータ間の関連性を体系化した「データ体系(Data Architecture)」
  3. 組織としての目標を実現するために必要となる業務とそれを実現するアプリケーションとの関係を体系化した「適用処理体系(Applications Architecture)」、
  4. 4.それらを実現するためのハードウェア、ソフトウェア、ネットワークなどの技術を体系化した「技術体系(Technology Architecture)」
 さらに、現状と理想のそれぞれについてモデルを作成し、現状から理想に向けた移行計画を定めた上で、システム開発手法、調達方針、システム基本設計、データモデル、利用技術などの標準を明確化します。
米国では1996年からスタート、日本でも研究進む

 米国では、1990年代前半から連邦政府を中心にエンタープライズ・アーキテクチャの採用が始まりました。1996年には、連邦政府の情報システムの全体最適を図るため、連邦政府の各機関に対してエンタープライズ・アーキテクチャ導入を義務付ける法律(Information Technology Management Reform Act of 1996、別名:クリンガー・コーエン法)が制定されています。

 さらに、1998年にはCIOカウンシル(連邦政府の情報化推進のための政策や標準化に関する勧告を行なうことを目的として1996年に設立された政府内の協議会)がエンタープライズ・アーキテクチャ開発・利用ガイド「Federal Enterprise Architecture Framework」を策定し、普及に弾みがつきました。現在では、デュポン、バンク・オブ・アメリカなどの民間企業にも採用が広がっています。

 日本においても、ITアソシエイト協議会(政府におけるシステム調達の課題を検討し、調達管理の適正化を図ることを目的として2002年6月に経済産業省が設置した研究会)の中で、システム調達・IT投資管理のための手法として、エンタープライズ・アーキテクチャの導入が本格的に検討され始めました。

 その後、2003年7月には、各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議(各省庁間の連携を図り、政府全体としての情報化推進体制を確立するためにIT戦略本部に設置された連絡会議)が「電子政府構築計画」を発表し、全府省において2006年3月までに業務・システムの最適化計画を策定することを目標として掲げています。この最適化計画は、エンタープライズ・アーキテクチャに基づいてIT投資を効率化しようとする内容で、将来的には、年間約2兆円といわれている政府・地方自治体の情報システム市場において、ほとんど全ての調達がエンタープライズ・アーキテクチャに基づいて実施されると見られています。

 エンタープライズ・アーキテクチャの導入により、行政運営の簡素化・効率化が大きく進展することが期待されますが、エンタープライズ・アーキテクチャは導入すれば直ちに効果が上がるような手法ではありません。導入後もその効果を測定しながら、絶えず見直しを図り、継続的に改善に取り組むことが重要と言えるでしょう。