筆者は本コラムでこれまで2回、ビッグデータ活用に乗り出した架空の流通業A社の取り組みについて執筆させていただいた。タイトルの通り、A社の社長がビッグデータ活用に遅れている自社の状況に気づき、社内の幹部や各部門に聞いて回るというものだ(1回目2回目)。

 これらの記事を読んだ取材先の方などから、こうした初期段階の企業が次に陥る落とし穴について、いくつかの情報が寄せられた。なかでも多かったのが、分析の目的に対する経営者と事業部門、IT部門の間での共通認識の欠如に端を発する迷走だった。

 具体的にどういうことか。A社の社長と各部長のやり取りを見てみることにしよう。

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社長「どうだ。ビッグデータ分析のタスクフォースはうまく行っているか?」

マーケティング部長「3カ月社内横断のタスクフォースで話し合って、ようやく社内のデータ分析を試行することにこぎ着けました」

Web事業部長「オンライン販売のWebサーバにたまっているログデータを、2カ月ほど前から試しに分析し始めました」

システム部長「うちは2人の部員をデータ分析の講座に通わせました。大学時代に研究で統計を使っていたものが二人いましたので。データ分析の専門人材であるデータサイエンティストと言うにはほど遠いですが、いくつかの分析手法を習得しました」

社長「そうか。我が社もなんとかビッグデータ時代に乗り遅れないで済みそうだな。しかし、効果が出たという話を聞かないが、大丈夫かね」

マーケティング部長「まだ2カ月ですので……」

システム部長「正直言って、何かがかみ合っていないような気がします……」

落とし穴その1:同じ用語を異なる定義で使っている

 マーケティング部長が、データ分析に使う各部門の資料を見ながらしきりに首をひねっている。

マーケティング部長「おかしいな、どの数字が正しいのか」

Web事業部長「どうかしましたか」

マーケティング部長「同じWebサービスの会員数でも、資料によって載っている数字が違うんだ。将来の予測値も異なるものが出てくるな」

Web事業部長「それならば簡単だ。部門によって、単に申し込みがあった会員数の数字を見ていたり、お試し期間を過ぎて有償課金に移行した会員数の数字を見ていたりするからです」

マーケティング部長「知っていたのなら、最初に教えてくださいよ」

Web事業部長「長年そうしてきたので、、、。それは場合に応じて読み替えないと」

社長「それでは正しい状況を把握できないじゃないか。即刻、システム部門か経営企画部門に音頭をとらせて、社内の用語の定義を統一しろ」

システム部長(すぐには難しいなあ。それぞれの部門が持っているシステムに入っているデータは、それぞれ別の定義に基づいているんだよな……)