筆者は今年の2月から日経BP ビッグデータ・プロジェクトという、日本企業のビッグデータ利活用を支援する取り組みを始めた。ニーズを探るため、延べ100人以上のユーザー企業やコンサルタント、業界の方々との意見交換や取材をしたり、1000人以上の方にセミナーなどでアンケートを実施したりしている。

 この過程で「今年に入って、経営幹部から我が社のビッグデータ活用を検討せよと言われた」という話を方々で聞くようになった。現場の方からは「ビッグデータ活用は当社に絶対無理」「バズワードだったと言われるまで、なんとかやり過ごしたい」との声もある。

 いったい企業のビッグデータ活用の現場では何が起きているのか。いくつかの“事情”が見えてきた。架空の大手流通業A社のケースとして紹介する。

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 毎週水曜日の午前に開催する、A社のシステム戦略会議---。普段は出席しない社長が姿を現した。

 社長「最近新聞やテレビで、『ビッグデータ』という言葉がやたらと取り上げられているようだな」

 システム部長「やっと日本でも、欧米の企業のようにデータ分析を重視するようになったようです。楽天やリクルート、ローソンは、顧客の購買や行動の履歴を分析して、売り上げ増やコスト削減など効果を出しています。昨日も夜の経済番組で取り上げていましたね」

 社長「うちも顧客や売り上げのデータを、相当な量保有しているじゃないか。この前の数億円のIT投資も、そのための装置なんだろう。それを活用しない手はないじゃないか。本当に必要な人だけに絞ったDMを打てば、コストを下げられるし、売り上げアップにもつながるはずだ。Webサイトに来る顧客のIDやログデータを活用すれば、その場で“リコール”できると言ってたぞ」

 システム部長「ちなみにリコールではなく、個別の顧客に応じた商品やサービスをその場で勧める“リコメンド”です。話は戻りますが、そうした先進企業と同じ取り組みは難しいです。もちろん中長期の課題として真剣に考えていますよ」

 社長「どうしてだ。やけに結論が早いし、なんか他人事だな」

 システム部長「まず、当社と同じ業態でビッグデータの活用事例はないです。そして我々システム部が管理している基幹系システムのデータは、ビッグデータ分析をするために整備したものではありません。データを後から集計して、会計処理や決算報告に使うのが目的です。ビッグデータ活用のためにデータを整備して、使えるようにするだけでも一苦労です。1~2年はかかりますよ。それに……」

 社長「なんだ、言ってみろ」

 システム部長「ビッグデータ分析で成果が出そうなデータの持ち主は我々システム部じゃないのです。例えばDM関連なら顧客のデータを管轄しているのは、マーケティング部とかWeb事業部ですよ」

 社長「知らなかったな。言われてみれば確かにそうだ。では、マーケティング部長に聞いてみるか」

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 毎週月曜日の早朝に開催している、A社のマーケティング戦略会議。社長がビッグデータの本を2、3冊携えて乗り込んできた。