英国生まれで、35ドルと格安のPCボード「Raspberry Pi」が人気だ。名刺サイズと小型ながら、GUIベースのOS(Linux)が動く本格マシンである(写真1)。

 2012年2月に発売された直後は、発注から入手まで半年も掛かるほど注文が殺到。2012年暮れに、ようやく生産体制が強化された。現在の出荷台数は、世界で120万台を超えている。

 日本でもどんどん人気が高まっている。日本のユーザー会「Japanese Raspberry Pi Users Group」が今年5月に主催したイベント「Big Raspberry JAM TOKYO 2013」ではRaspberry Piの開発者を招き、あっという間に埋まった募集枠の120人で大いに盛り上がった(関連記事:25ドルPC「Rasberry Pi」のイベント開催、カメラモジュールや新ソフトを披露)。

写真1●Raspberry Pi用Linuxディストリビューション「Raspbian」のデスクトップ画面
写真1●Raspberry Pi用Linuxディストリビューション「Raspbian」のデスクトップ画面
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 筆者が編集を担当したムック「誰でもできる! Raspberry Piで楽しもう」は、6月9日にRaspberry Pi本体とのセット予約販売を100個限定で開始。ほぼTwitterとFacebookだけでしか告知しなかったのに2時間強で売り切れ、1週間後に追加販売した限定500セットも丸1日で完売してしまった。再開の要望をいただいており、近々お応えできそうだ。

 最近では、45ドルの「BeagleBone Black」や49ドルの「Cubieboard」など、Raspberry Piに対抗した製品も続々登場している。元々子供達の理系離れを憂いて開発したRaspberry Piが、なぜ世界中の"大人"を引き付けるのか、ちょっと考えてみた(関連記事:「25ドルのコンピュータがあればで子供達が遊べる」~エベン・アプトン氏・Raspberry Pi財団設立者)。

いじり甲斐がある

 Raspberry Piが楽しい理由は大きく2つあると思う。(1)いじり甲斐があること、(2)普通のPCでは実現できないマシンを作れること、である。

 Raspberry Piの推奨OSは、老舗の「Debian」をベースにした「Raspbian」というLinuxディストリビューションである。軽量ブラウザー「Midori」やテキストエディタの「Leafpad」などが標準で入っていて、起動時に日本語を使うよう設定するだけで、誰でも簡単に使い始められる。Debianと同様の豊富なソフトウエアパッケージ(3万個以上)を利用でき、ブラウザーの「Chrome」(正確にはOSS版のChromium)やオフィススイートの「LibreOffice」も簡単に導入して利用できる。初心者にも簡単な「Ubuntu」など、PC用のLinuxディストリビューションを使うのと変わらないレベルだ。

 ただし、ちょっと人と違うことをやろうとすると、手間が掛かったりする。例えばUSB接続のWebカメラを使うのは、OSのバージョンが古かった1年前だと大変だった。Webカメラを使うには、PC上のLinuxで「クロスビルド環境」を構築し、Raspberry PiのARMプロセッサ用ドライバをx86マシン上で作成する必要があった。今ならつなぐだけで使えるが、当時は必要なドライバがOSに入っていなかったのだ。

 Raspberry Piが搭載するCPU(コア)が、700MHzとかなり非力なことも、手間の掛かる原因の一つだ。例えばブラウザーのChromeは、実際には動作が重くて、日常的に使うのは結構つらい。そうしたときに代替ソフトを探す必要がある。

 でも、そんな手間を掛けると、たった35ドルのマシンで、たいていのことができてしまう。監視カメラを家中にたくさん置いてペットの見守りをしたり、軽いWebサーバー「lighttpd」上でブログシステムを動かしたりできる。

 PCを使えば簡単なことかもしれないが、手間が掛かるだけに動いたときに感動がある。だからRaspberry Piは楽しいのだ。