この連載では、「ダメに見せない説明術」を扱っている。前回まで、最後のダメ説明である「反論する、否定する、対立する」をテーマに取り上げた。10のダメ説明は以下の通りである。

「10のダメ説明」

  1. 長い、細かい、テンポ悪すぎ
  2. 論点不明、主旨不明、結論なし
  3. 抽象的、具体的でない、表面的
  4. 理由がない、何故?が満載、説明が不足
  5. 独りよがり、自分視点、自己中心
  6. 遅い、ぎりぎり、時間なし
  7. 理解が浅い、内容が陳腐、質問されると沈黙
  8. 先を読まない、場当たり的、その場しのぎ
  9. 思想がない、考えがない、自分がない
  10. 反論する、否定する、対立する

 前回の事例では、未熟なプロジェクトマネージャ(PM)である岡本氏が、客先の大山氏の無理な要求に対応できず、仕方なく自社に持ち帰ったエピソードを紹介した。今回はこの続きである。岡本氏はどうなったのかを説明したい。

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 大山氏を訪問し、追加要求を受けた岡本氏は、帰りの電車の中で、上司である開発企画管理部の堀井課長にどう報告しようか悩んでいた。正直に報告したら何と言われるのか。そのことを考えていた。

 堀井課長はシステム開発部門で多くの難しい開発を成功させた人物である。若いうちから昇進を続け、今は最年少の課長職である。親分肌で仕事はできるが、部下の失敗には容赦なく厳しい。しかし岡本氏には不思議だったが、堀井課長には人望があるという評判もあった。

 岡本氏は今までシステム開発部門で働いていたが、PMになるために、開発企画管理部に異動してきた。そこで多くの先輩が堀井課長に厳しく指導されている姿を何度も見ていたので、堀井課長を苦手に思うようになっていた。

 堀井課長は多くの部下を持っていたので岡本氏とはあまり接点を持たず、岡本氏の指導は他の係長に担当させていた。このため岡本氏と堀井課長の接点は少なく、両者の間にはこれまでコミュニケーションがほとんどなかった。

 岡本氏は、堀井課長が苦手だったので、今回のことを非常に厄介だと思った。課長からは相当ひどいことを言われるだろう。そう思うと気持ちが落ち込んだ。

岡本氏はシステム開発の難しさ、PMの怖さを痛感した

 岡本氏はこのプロジェクトが始まった初期の頃から、顧客であるユーザー企業A社の大山氏を苦手にしていた。大山氏は、大手卸売業を営むA社の企画部門の課長代理だが、もともと営業出身の馬力を持ったタイプだった。実行力があるだけでなく、理屈にも相当強い。何を言っても理屈で返してくるので、岡本氏はいつも交渉で力負けしていた。

 それでも、何とかここまでうまく交渉してきたのだが、今回、システムテスト直前という時期に大きな追加要求を受けてしまった。普通ならそんな非常識な要求は即座に断りたいのだが、何を言っても事態は自分に有利にならないと思ったのだ。

 追加要求を拒否すれば、大山氏はいろいろな理屈をつけて作業をストップさせるように動くに違いない。そうなると、上司の堀井課長にまたいろいろ言われて自分が苦しくなる。岡本氏は、そう考え、いくら考えても答えが出ないことでさらに憂鬱になっていった。

 岡本氏にとって、このプロジェクトはPMとして最初の大事な仕事だった。自分はシステム開発なら相当できる自信がある。設計も、テストも、移行だって強いと思っている。それが会社に評価されたから、サブマネージャを任され、それも成功したから今回はPMに抜擢された。

 しかし、システム開発経験、知識が十分でも大山氏一人を説得できず、その大山氏の行動によってはこのプロジェクトが失敗プロジェクトになる…。岡本氏は、システム開発の難しさ、PMの怖さを痛切に感じた。