この連載では、「ダメに見せない説明術」を扱っている。前回は、最後のダメ説明である「反論する、否定する、対立する」をテーマに取り上げた。10のダメ説明は以下の通りである。

「10のダメ説明」

  1. 長い、細かい、テンポ悪すぎ
  2. 論点不明、主旨不明、結論なし
  3. 抽象的、具体的でない、表面的
  4. 理由がない、何故?が満載、説明が不足
  5. 独りよがり、自分視点、自己中心
  6. 遅い、ぎりぎり、時間なし
  7. 理解が浅い、内容が陳腐、質問されると沈黙
  8. 先を読まない、場当たり的、その場しのぎ
  9. 思想がない、考えがない、自分がない
  10. 反論する、否定する、対立する

 前回は、筆者の定義する説明術での「反論、否定、対立」は、正反対の二つの意味を持つことを述べた。一つは、仕事を成功させるために欠かせない行動としての側面を持つ、『よい「反論、否定、対立」』である。

 もう一つは、「正当な根拠がない」「嫌い」「面倒」「他人から逃げる」などのネガティブな感情によるもの。自己正当化のための「他人への反論」「他人否定」「他人との対立」を伴う『ダメな「反論、否定、対立」』である。

 この二つはどちらも「反論、否定、対立」だが、その状況、もたらす結果は全く異なる。前者は、ビジネスにおいてレベルの高い成果をもたらす可能性を持つが、後者はレベルの低い成果だったり、成果が全く出ない(=失敗)となる可能性を持つ。

 このようにビジネス上で発生する「反論、否定、対立」は、うまく行わないと成果に大きな差ができてしまう。だからこそ、「反論、否定、対立」についての知識体系やスキルを大事にして、しっかり学ばないといけない、というのが筆者の考えである。

 では『よい「反論、否定、対立」』というスキルセットには、「どのようなものがあるのか」「何を学ぶ必要があるのか」「どのような場面で役にたつのか」。今回はこれを具体的に説明する。

「利害衝突」を処理できなければプロジェクトは崩壊

 様々な人々が参加する大規模プロジェクトでは、関係者の利害が衝突することが多い。利害の衝突はプロジェクトに参加する「立場の違う人」が複雑に絡みあって発生する。一般に利害関係者が多ければ多いほど、利害衝突は複雑になってくるものだ。

 本来「立場が違う人同士」は「欲しい利益」も違うから、具体的な「主張、意見」も違うものになる。

 ここで筆者が言う「立場の違い」とは、例えば、「開発ベンダーと利用企業」「業者と発注者」「売り手と買い手」のような関係を指す。「全体目的は一緒だが、個別には自分と相手の利益が相反する」関係である。

 例えば、システム開発プロジェクトにおける「開発ベンダーと利用企業」の意見は、全体的には「システムを一緒に品質よく完成する」「使えるシステムを一致団結して作る」という「双方の共通利益」の点では一致する。だが、その一方で「個別細部では非常に対立しやすい」という特性を持つ。

 客は使いやすい機能を短い納期で安く開発したいと希望する。開発側は客のすべての要望は聞けないし、短い期間での開発は辛い、一定以上の価格でないと仕事にならない。…このような立場の違いによる利害の衝突は、多くのビジネス現場で常に発生している。

 この「立場の違い」「意見の違い」を調整し、利害衝突を乗り越えて関係者全体の共通利益を最適化することが重要だ。しかし、これがうまくできない人間が多い。

 なぜなら、多くの人は利害衝突局面において、「自分の意見(自分のメリット)だけを主張し、相手の意見(相手のメリット)を考慮しないことが多いからだ。多くの人は、自分や自分の組織を守るために、相手側に利益を諦めてもらうように話をしてしまうのだ。

 相手の主張、意見にストレートに「反論」「否定」すると、相手を怒らせて「初期の対立構造」が発生する。さらに相手の主張に「反論」「否定」を繰り返していると、相手はさらに怒り、冷静さを失い、建設的な話ができなくなる。

 こうした対応を続けていると、次第に「深刻な対立」が起こり、仕事が硬直してドロ沼化する。このような状況は絶対に避けなければならない。

 利害衝突を避けたり、発生した対立構造を正常化する「知識体系やスキルセット」を持たないと、大きな組織での管理職や大きなプロジェクトのマネジメントはできない。そのために必要なのが、筆者の体系化している「相手を誘導するための説明術=説得的説明」である。