この6月中旬、10日間で200人と対話した。1日平均20人、1人当たり15分から20分ほどかかったので合計3000分、ざっと50時間を費やしたことになる。
実際には自宅にこもってパソコンをにらみ、キーボードを叩いていただけなので人に会って対話した訳ではない。対話の道具は電子メールやソーシャルネットワークではなく、原稿清書用ノートパソコンに入っているワープロソフトであった。
何をしていたのかと言うと、日経BP社の「IT専門記者100人」が100人のプロフェッショナルを紹介する『我らプロフェッショナル 世界を元気にする100人』という企画の原稿を査読していたのである。
原稿を査読する仕事はその原稿を書いた記者との対話と言ってよい。今回の原稿100本の内容はすべて人物紹介であったから、登場するプロフェッショナルとの対話でもあった。原稿1本の査読すなわちプロ1人とそれを紹介する記者1人との“対話”に30分から40分かけたので、冒頭のような数字になった。
30年近く記者と編集者の仕事をしているが、100本の原稿を一気に査読したのは今回が初めてである。100本読み続ける間、100人の共通点は何だろうと考えた結果、「センスのいい人」たちだと気付いた。
「センス」とは何かという話は、2012年1月27日付本欄に長々と書いた(「センスのいいSE」とは何か、考えてみたが難しい』参照)。その結論は、「センスの良し悪しはその仕事や職種や役割の本質を感じ取れるかどうかにかかる」というものであった。
本質とは、それがないと意味をなさない根本を指している。1年前の拙文において、ITに関わる仕事ごとに「本質」を挙げてみた。
- プロジェクトマネジャーの場合、「プロジェクト目標の達成」
- システムズエンジニア(SE、顧客の問題を定義し解決策を作り必要な情報システムを設計できる人)の場合、「顧客が喜び顧客の仕事に役立つ成果物を渡すこと」
- ITサービスマネジャー(運用の責任者)の場合、「安定稼働」に加え「ビジネスへの貢献」
プログラマとプロダクトマネジャーの本質は何か
今回100本の記事を通読すると、プログラマとプロダクトマネジャーがかなり登場するのだが1年前の記事では触れていなかったので、ここで考えてみたい。
プログラマの本質は「設計通りに効率よく動くコード」と言いたいところだが、ITサービスマネジャーにならって「ビジネスへの貢献」としておく。そのコードを使う利用者のビジネスへの貢献である。
プロダクトマネジャーとは製品やサービスを考案したり、つくったりする人である。起業家も、ビジネスモデルというプロダクトのマネジャーと言えるだろう。では、その本質は何か。少し考えてみたが思いつかないので、かのピーター・ドラッカーが言う「顧客の創造」にしておく。
「センスのいい人」は以上の「仕事や職種や役割の本質を感じ取れる」。1年前の記事の最後に次のように書いた。
今回100人の記者が書いた原稿を通じ、100人のプロフェッショナルと対話した結果、「どうすればそうした力を身に付けたセンスのいい人になれるのか」という「難問」に答えられる気がしている。100本も読んだため、“エディターズハイ”になっており、本当は答えられないのかもしれないが話を進める。
100人のプロフェッショナルの発言や行動を記事で読むと、意識的かどうかはさておきご自分の仕事の本質をつかんでいる。つまり100本の記事の中に、「感知の対象を広げる」ヒントがある。代表的なものを挙げてみたい。