「センスのよいプロジェクトマネジャ(PM)になるというテーマの記事を書いてもらうことはできませんか」。

 知り合いから昨年末こう頼まれたが態度を保留していた。今年になって書こうと決めたのは、依頼者に色々と借りがあり少しでも返したいと思ったからだ。

 これには正月に決めた筆者の「2012年活動方針」が関係している。話のついでに紹介すると「宿題一掃」「在宅執筆」「◎○△×」とした。「宿題一掃」とは「積年の借りを返す」という意味である。

 書くと言ったが書いていない。考えると言ったが考えていない。やると言ったがやっていない。こうした不義理を今年中になんとかしたい。新しい仕事を引き受けるのは極力止める。

 当初は「借金返済」という方針が思い浮かんだが、誤解を招きかねないので「宿題一掃」に変えた。「一掃」は目標であって「実施」で終わるかもしれない。

 「在宅執筆」とは文字の通りである。取材だ会見だ打ち合わせだ会合だと歩き回らず原稿書きに専念する。宿題の多くは原稿であり一掃を目指すにはとにかく書かないといけない。3番目の「◎○△×」が最重要であるが、仕事ではなく個人の方針なので伏せ字にしておく。

センスについて考えたことはない

 「センスのよいPM」というお題を出してきたのは、テクノロジーマネジメントやプロジェクトマネジメントの分野で豊富な経験を持つ論客、コンサルタントの好川哲人氏である。好川氏は次々にアイデアが出てくる人で、「こんなことはできませんか」と提案を持ちかけてくる。だが筆者は一部しか応えておらず好川氏に対する負債額は大きい。

 昨年末、好川氏は2012年の重点テーマとして「センスのよいPM」を掲げ、「このテーマでコラムのキャッチボールをしたい」と申し入れてきた。送られてきたメールには「こういう視点でPMを見るようにしたいと思います。あまりにもセンスがないPMが乱造されているような気がしてならないので」と書いてあった。

 回答を逡巡しているうちに好川氏は『センスについて考える』という一文を書き、「口火は切りました」と連絡してきた。本稿は応答になるので好川氏の一文もぜひ読んでいただきたい。

 借金返済、いや宿題一掃の第一歩である。勢い込んで「センスのよいPM」について書こうとしたが、すぐ手が止まった。「できる」と評判のPM数人に詳しく話を聞いたことがあるし、プロジェクトマネジメントに関する記事はたくさん書いてきた。ただし「センス」に着目したことはない。

 最近記憶力が怪しくなっているので自信はないが、取材時に「あなたはなぜセンスがよいのか」と聞いたことはないしセンスについて正面から書いた覚えもない。そもそも英単語の片仮名表記があまり好きではない筆者は、センスという言葉を使って何かを考える習慣がない。

 「できるPM」「優秀なPM」「失敗しないPM」のことを書いてお茶を濁そうとも考えた。できるPMは「センスのよいPM」に違いない。だが好川氏がセンスにこだわっている以上、それに触れないわけにはいかない。

困ったので辞書を引いた

 困ってしまい手元にあった辞書を引いてみた。岩波英和辞典で“sense”を引くと最初に「知覚・感覚の力」と出てくる。sense of beautyは美を感知する力。理性、正気、分別という意味もある。common senseは常識である。

 senseの2番目の意味は「感ずること」。感じ、気持ち、理解、意識と記されている。3番目が「意味、意義」で、語句の意義、意味、筋の通ること、と並ぶ。make senseと言えば最後の意味である。

 「センスのよい」「センスがない」といった場合、1番目の意味である「知覚・感覚の力」の良し悪しを指すのだろうが、PMの場合それは何だと考え出すとよく分からない。

 広辞苑で「センス」を引く。「物事の微妙な感じ或いは意味をさとる働き」「思慮分別」とあり、用例として「センスのいい服」が挙げられていた。「センス」は“sense”より限定された意味を持つようである。

 「センスのよいPM」とは「物事の微妙な感じ或いは意味をさとる」ことに長けた人であろう。ではプロジェクトにおける「物事の微妙な感じ」とは何か。長年の取材経験からなんとなく分かるが、こうだと言い切る自信はない。

 できるPMに改めて聞いてみるべきだが「在宅執筆」の方針に抵触する。センスのような「微妙な感じ」の題材について電子メールで聞くことは難しい。こうなると自問自答しかない。

 PMの経験はないので、経験がある仕事について「物事の微妙な感じ」を「さとる」「知覚・感覚の力」を考えてみる。