日本のデータセンター(DC)市場の全体像を把握するのは、とても難しい――。日経コンピュータ 10月25日号で、DCに関する大型特集「世界最適のシステム“立地”戦略」を担当した筆者の偽らざる感想である。業界団体も存在するのだが、市場規模を示す正確な数字は無い。なぜDC市場には謎が多いのか。その理由をいくつか考察してみよう。

 DC特集を担当することになった記者がまず訪れたのは、「日本データセンター協会(JDCC)」である。JDCCは2008年12月に設立されたデータセンター事業者の業界団体だ。業界団体に問い合わせれば、日本にデータセンターが何棟あって床面積は何万平方メートルほどなのか教えてもらえるかもしれない。記者はそう考えた。

JDCCは経産省系、通信事業者は加盟していない

 実際にJDCCでは、2011年末から2012年の頭にかけて国内DC市場の実態調査を行っていた。国内の主要なDC事業者に詳細な調査票を送り、施設の延べ床面積やサーバールーム面積、自家発電機など電源設備の現況などを答えてもらったのだという。しかしJDCCのこの調査では、日本の国内DC市場の全容を把握することはできなかった。なぜなら「調査では、国内にあるDCの3割未満しかカバーできなかった」(JDCC事務局)からだ。

 実はJDCCは、経済産業省系の団体である。そのため、コンピュータメーカーやシステムインテグレーター、DC専業の事業者などはJDCCに加盟しているが、通信事業者はJDCCに加盟していない。しかもJDCCが通信事業者に調査票を送っても、回答は返ってこなかったという。ある通信事業者は、「ASPIC(アスピック)の調査なら回答できるのだが」と口を濁す。ASPICとは「ASP・SaaS・クラウド コンソーシアム」の略で、こちらは総務省系の団体だ。

 もっとも、JDCCとASPICが合同の調査をしたとしても、DC市場の全貌を把握するのは難しかったはずだ。そもそもDCを運営しているのは、第三者にDCを貸し出す事業者だけではない。金融機関や大手メーカーは、自社でDCを保有して運営している。企業統合などによってDCが不要になり、これらユーザー企業のDCが、外部向けの貸し出し用DCに化けることもある。

DC市場を知りたければ、足で稼ぐしかない

 またDC市場では、複雑な「また貸し」が行われている。あるDC事業者が建てた施設に、システムインテグレーターなどが入居し、そのシステムインテグレーターが自社のDCと称して、ユーザー企業などにラック単位で貸し出すようなケースだ。事業者が公表する施設数や床面積を単純合計すると、同じ施設のダブルカウント、トリプルカウントが発生する可能性がある。

 結局、DC市場のことが知りたいのであれば、足で稼ぐしかない。そう考えて今回の特集では、IDC Japanや富士キメラ総研といった調査会社に協力を仰ぐ一方で、DC事業者やDCを利用するユーザー企業をひたすら取材することにした。担当記者は二人。最近はアジア地域のDCを利用する日本企業も増えていることから、宗像誠之記者がシンガポール、マレーシア、タイを回り、それらの地域のDC動向をまとめた。国内事情を担当した筆者は、首都圏だけでなく、沖縄県、大阪府、福島県、北海道に飛び、各地の最新DCを取材した。

 二人の記者が訪問したDC事業者やユーザー企業は、国内外合わせて50社を超える。また日本国内でDCを運営する60社以上のDC事業者に質問票を送付し、主なDCの所在地や規模を調査した。決して容易な取材ではなかったが、日本国内やアジア地域のDC市場の真相に、ある程度は迫れたのではないかと自負している。