前回、「『タレントマネジメント』って何?」という記事を執筆した。取材先の方や知人から、いまなぜ日本企業が全社人材の戦略的活用であるタレントマネジメントを導入しようとしているのか、背景がよく分かったというコメントを複数いただいた。

 その一方、「結局、タレントマネジメントのシステムは何をしてくれるの、どんな機能があるの?」「そもそも日本企業にそぐわないのでは」といった質問も受けた。確かにその点は説明していなかった。この二つの疑問に答えていきたいと思う。

「タレントマネジメントシステムって何」

 まず、「タレントマネジメントシステムって何」という点。これは一般的な人事システムとの違いから見ていけば分かりやすいだろう。結論から言うと、名前や経歴、取得資格といった基本的な人事情報を扱う点は同じである。

 ただし、主たる利用者や用途が大きく異なる。人事システムは主として人事部門の担当者が台帳を管理したり、勤怠処理や給与計算を行ったりするためのものだ。「人給(じんきゅう)」と呼ばれることも多い。

 タレントマネジメントシステムは、経営陣や事業部門長など会社の幹部層が活用するケースが多い。例えば、社内で空いた重要ポストに最適な人材を検索するような場合だ。人事の基本情報に加えて、これまでの参加プロジェクトや海外勤務の可否、異動希望といった付加情報を登録する。従業員個々の保有スキルを管理して、必要な学習を施すシステムもタレントマネジメントの範ちゅうに入る。

 製品やサービスとしては、米サクセスファクターズのようなクラウド型のサービスを使う場合と、米オラクルや独SAPなどのERP(統合基幹業務システム)の拡張機能を導入する場合がある。国内で高いシェアを持つ、ワークスアプリケーションズも今年4月、人事ERPの追加機能としてタレントマネジメント機能の提供を始めた。

 クラウド型は「早期に導入したい」、ERPは「企業の基幹システムと密に連携させたい」といった企業が採用しているようだ。

「日本企業にそぐわないのでは」

 次に「日本企業にそぐわないのでは」との疑問。これは欧米型の成果主義、専門職重視を支援する機能に対する警戒感だろう。

 例えば、タレントマネジメントシステムの機能として、特に優秀な従業員に白羽の矢を立てて特別な育成プランを受けさせたり、経営幹部や重要ポストの後継者としてふさわしい人材として極秘裏に指名したりして管理するものがある。経営層が設定したKPI(重要業績指標)をベースに、所属長や部署、従業員の成果を評価するといった機能まで挙げればキリがない。

 こうした成果主義系の機能は日本企業にとって「興味があるが、運用が大変そう」という見方が多いようだ。実際、国内でタレントマネジメントを導入している企業のほとんどは、グローバルにおける人材台帳の整備が目的。日本と海外、海外同士での人材交流を活発化し、真のグローバル化を実現するものだ。

 もっとも、グローバルの人材台帳が整備されれば、成果主義的な機能を入れやすくなるのも事実だ。クラウド型のサービスであれば、1機能として追加するだけで済む場合が多いからだ。タレントマネジメントを導入した企業で、いつの間にか成果主義系の機能が動いていたという場面に出くわすかもしれない。

 タレントマネジメントは経営者が深く関与するシステムである。日本でも改革重視の経営者であれば、トップダウンでいち早く導入したいと考えるだろう。