最近のNTTドコモの記者会見で、必ず映し出されるスライドがある。

写真1●ドコモが最近の会見で必ず示す「ネットワークの“土管化”」と「ネットワーククラウド」の説明図
写真1●ドコモが最近の会見で必ず示す「ネットワークの“土管化”」と「ネットワーククラウド」の説明図
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 右側にネットワークの「土管化」と描かれた図があり、「端末メーカー等が端末に特化したサービスを提供」し、「通信事業者のネットワークが土管化」され、「端末が限定される」と説明がある。端末のイラストからも、明らかに米アップルの「iPhone」のビジネスモデルを指していると理解できる(写真1)。

 それに対して左側にはドコモが目指す戦略「ネットワーククラウド」が描かれる。ネットワーク内のインテリジェントな機能を使って、「端末種別を問わず」「通信事業者がサービスを提供する」とある。

 同社の山田隆持社長は、このスライドを示しながら毎回、「ドコモとしてはなんとしてもこのネットワーククラウドを頑張って、ネットワークの“土管化”を避けたいと考えている」と話を締めくくる。

 ドコモによる「iPhone決別宣言」とも言えるこの戦略(関連記事:「現状ではiPhoneの取り扱いは厳しい」、ドコモ山田社長)。ユーザーの視点からすると、本当に「ネットワーククラウド」が魅力的になるのか。また、技術的にどれだけネットワークとサービスをひもづける必然性があるのか。少し疑問に感じる。

通信事業者が提供する「ネットワーククラウド」の強みとは?

 ドコモがこのような「ネットワーククラウド」戦略を本格的に提唱し始めたのは、2011年11月に打ち出した「中期ビジョン2015」からである。「モバイルを中心とした総合サービス企業」への転換を宣言したこの中期戦略の中で、ドコモは「パーソナルクラウド」「ビジネスクラウド」「ネットワーククラウド」という三つのクラウドを定義した。ここでネットワーククラウドは、「ネットワークでの高度な情報処理・通信処理により付加価値を提供する基盤」としている。ドコモの回線を使うことで、より多くのメリットが得られるクラウドサービスと捉えればよいだろう。

 「ネットワーククラウド」サービスは既に始まっている。利用者が「周辺の良いレストランは?」などと端末に向かってしゃべると、ネットワーク側で情報を収集し、音声合成で答えてくれる「しゃべってコンシェル」、日本語でしゃべった内容をネットワーク側で英語や韓国語、中国語に翻訳して相手に伝える「通訳電話」、メールの内容を翻訳してくれる「メール翻訳コンシェル」などが、ネットワーククラウドサービスに当たる。

 これらのサービスは、ドコモならではの先進性を感じるサービスだ。ただ、いずれもドコモ回線に限定しなくても提供できそうだ。さらに、通信事業者以外の、ネット上の上位レイヤーにいるプレーヤーが似たようなサービスを提供することも可能だろう。