つい先日、あるICT企業の新人研修での講演依頼があり、僭越ながら、業界や市場のトレンドについて、話をさせていただいた。新人研修といっても、対象はまっさらな新人ではなく、昨年春に入社し、もうすぐ社会人2年生になる若者たちである。研修全体の内容は、「仕事とは何か」「どのように課題を見つけ、解決していったらよいか」といったものだ。

 若者ばかりがずらっと並ぶ前で話すなんて機会はあまりない。だから彼らの元気に気圧されつつも、話をしながら若者を観察しようとした。そして観察の一環として、講演の最初のほうで、「この中で、スマートフォンを持っている人?」と尋ねてみた。

 結果は、150人以上いるうち、見た目9割、もしかするとそれ以上が手を挙げた。質問したのは“携帯電話”ではなく、“スマートフォン”についてである。さすがにちょっと驚いた。念のために申し上げておくと、この企業は、決して携帯電話事業者や携帯電話機メーカーではない。

 スーツを新調するのと同様に、入社を機に購入したのかもしれない。それにしても、“ガラケー”と尋ねてパラパラとしか手が挙がらないほどの状況になっているとは想像していなかった。講演前に、研修の企画担当の方と話をしたときも、「半分・・・、いやもっといるでしょう」という話にはなったが、ざっくりとした目安として浮かんだのは「ほぼ全員」ではなく、「半分」だった。「あぁ、デジタルネイティブと言われる世代は、これが当たり前になるんだ」と、今さらながら感じた。

 そして考えたのがBYOD(Bring Your Own Device)である。

スマートフォンの2台持ちは面倒

 スマートフォンをクライアントに使った情報システムを構築する企業が増えているが、その多くは企業が購入したスマートフォンを従業員に貸与している。セキュリティやクライアント管理の問題を考えれば、企業が購入したスマートフォンを貸与する方が安心だからだ。スマートフォンの出荷が伸びているとは言っても、全体の比率からすればまだ多数派とは言えず、現状ではシステムにアクセスできない人が多いことも理由の一つだろう。

 だが何年か経てば、従業員の大半が自分のスマートフォンを持つようになる。新入社員については、既にほぼ全員がスマートフォンを持っている。従業員からすれば、スマートフォンの2台持ちは面倒なので、自分が所有しているスマートフォンを仕事でも使いたがるのではないかと思える。つまりBYODである。

 筆者が20年ほど前に就職した当時、社内では1人に1台もパソコンはなかった。商用インターネットもなかったから電子メールも使えない。学生時代には自由に使えたものが、会社では全く利用環境が整っていなかったことで、ものすごく不満を抱いたのを覚えている。置き換えてみると、今の若者なら、スマートフォンについて似たような感覚を持つのではないか。既に現状でも、エンドユーザー(一般の従業員)からのBYODのニーズが高まってきていると聞くことが時折ある。情報システム部門は、そうしたニーズに早晩抗いきれなくなるかもしれない。

バリエーションはたくさんある

 BYODを実践しようとしたら、具体的には何をすればよいか、皆さんは想像できるだろうか。恐らくすぐに思いつくのは、ユーザー認証の仕組みや、MDM(モバイル端末管理)だろう。社内の無線LAN環境を思い浮かべる方も少なくないはずだ。

 実際にベンダーに提案を募ってみると、バリエーションが案外たくさんある。日経コミュニケーション 2月号で、そんな企画を記事にしてみた。そこには例えば、無線LANを使わずにBYODを実現する案、無線LANコントローラーを使って端末を識別しアクセス制限する案などがあった。少し角度を変えると、端末にアプリを搭載するもの、しないものといった違いもある。

 ほかにも、端末の盗難・紛失などに備えたリモートワイプ(遠隔でのデータ消去)で、特定のデータだけを消去できるようにするかどうかなど、観点はいろいろ。記事に出てくるのはベンダー5社の提案だが、恐らく、探していくと、もっと色々なバリエーションがあるだろう。さらに、モバイルパソコンのBYODを同時に実現するなど、別の条件によってもソリューションの選択肢は変わってくるはずだ。

 ニーズが高まる傾向にあると同時に、ソリューションはどんどん充実してきている。これでもあなたの会社ではまだ、BYODを無視していられるだろうか。