今回の記者の眼は筆者と知り合いの合作である。知り合いが書いた文章が大半を占めており彼の寄稿というべきかもしれない。合作ないし寄稿の発端は知り合いが次の電子メールを送ってきたことだ。

 ご無沙汰しています。お書きになった『上司に文書を破られた経験の有無』を読ませてもらいました。納得感があり、どこも同じなんだなあと変に同感して安心(?)してしまいました。

 わたしもここ10年以上、周囲や部下が書く文章の問題に悩んでおります。記事にありましたようにパソコンで資料を作るようになってから文章力が急激に低下しています。とりわけバブル崩壊の直前に入社した人の文章に問題が多いと感じています。

 わたしが若い頃は手書きの時代でした。先輩に文章を出すと赤ペンで徹底的に直され先輩がよしと言うまで何度も書き直しを命じられました。100ページ近い報告書を作っていて最後の最後に全体の構成を大きく変えるように指示され徹夜で泣きそうになりながら全部書き直したこともありました。

 今のようにカットアンドペーストなどといったことはできず朱書きをされるたびに何度も何度も一から書き直していました。先輩も納得するまで妥協せず赤ペンで直してくれました。

 字が下手でしかも怖い先輩にあたると赤ペンの文字は読めないし聞くに聞けません。周りの友人と文字の解析をするとともに、日頃先輩の言っていることから類推し、文章を直したことが何度もあります。

 それでも間違えることがしばしばあって「俺の字が読めないとは修行が足りない」とよく叱られました。そういう先輩でも自分の字が時々読めなくなり「確かに俺でも読めないなあ」と言いながらニヤリとしていたものです。こちらはその顔に一層怖さを感じました。

 書き直しをしたくないという一心から、何度も何度も読み直し修正してから文章を出す習慣がつきました。全体構成を後から変更されないように構成を考え抜くようになりました。

 まず目次案を作って全体を確認します。次にそれぞれの目次に続いて書こうとしている内容の概要を示しておき、概要を通して読み、各目次の間の関連を確認します。概要からストーリとして書こうとしている内容を思い浮かべ、さらに各目次の内容と照らし合わせ、矛盾や重複、あるいは書くべきことの不足がないかどうかを確認、すべてをクリアしてから各目次の本文を一気に書くようにしました。

 バブル崩壊後に当社は新人採用を一時手控えました。その時に先輩から後輩への赤ペン指導が途絶えてしまったのです。当たり前ですが実際に指導された経験がないと次の代に対して指導できません。

 お恥ずかしいことに今の課長から部長の世代にまともな文章を書けない人がいます。「何でもプレゼンテーションシート」という風潮になって、まとまった文章をますます書かなくなっているため事態は改善されません。

 当社は文章を書かせる教育を始めていますが、1日か2日研修しただけではその場で多少改善しても日々の仕事に戻るとすぐに元に戻ってしまいます。やはり毎日の実践が必須と考えます。しかし役職者に指導できる人が少なく悩んでいる次第です。上司や先輩に期待できないとなると自己レビューをうまくやる工夫を教えないといけないのかもしれません。

 長々と書いてしまいましたが、わたしはいまだに提出された議事録や原稿を印字し、そこに朱入れをしてから返却しています。紙を使うので環境には良くないのでしょうが。もっともパソコンの字が見えづらくなっているという年齢の問題もあります。駄文失礼しました。

 電子メールを読み「それなら研修に参加してはどうですか」と返信した。研修とは『上司に文書を破られた経験の有無』の中で紹介した『演習で身につける!システム構築を成功に導くソフトウエア文章作法~リーダーが高める開発現場の文章力』(同内容の研修案内はこちら)を指す。

 知り合いは数日後、「仕事を調整し1日空けられたので参加します」というメールを送ってきた。勉強熱心な彼は研修当日、最前列で聴講、質疑応答の時には挙手をして質問、さらに研修終了後にも講師をつかまえて話を聞き、講師の著書を購入して帰っていった。

 その晩遅く(正しくは翌日午前1時過ぎ)、筆まめな彼からメールが来た。

 中身の濃い研修に無事、終日参加できました。ありがとうございました。正直、このような研修は初めてだったかもしれません。講師の強烈な個性と一貫した考えが凝縮された内容で刺激に満ちており非常に楽しく一日を過ごせました。単なるテクニックを伝えるのではなく、文章作成能力の根幹にかかわる重要事項を繰り返し説明されたので、わたしにとって納得のいくものでした。