「ITの製品やサービスを購入して利用するユーザー企業として、理想的な姿は何なのだろうか」。日経コンピュータ9月29日号の特集「ソフト料金、最新事情」を取材する過程で、こんな大げさなことを考えた。ソフトの料金が急に値上がりするとしたら、ユーザー企業としては受け入れがたい。しかしソフトメーカー側にも、料金改定に至る事情はある。ユーザー企業が一方的に「値下げしろ」と迫るだけでは、状況は好転しないのではないか。こんな思いを抱いたからだ。

ソフト大手が相次ぎ料金改定

 企画化のきっかけは、ソフトのライセンス料金や保守サポート料金に関する変更が相次いでいることだ。詳細は本誌の特集をご覧いただくとして、ユーザー企業によっては突然の値上げにつながるところもあるだけに、見逃せない動きだ。

 一例が、日本オラクルがこの11月から本格的に導入する「更新時調整料金」だ。同社は11月以降、保守サポートサービス「Premier Support」の契約をユーザー企業との間で更新する際、その年の契約料金にこの更新時調整料金を上乗せして、翌年の契約料金とする。

 「調整」するのは、上乗せする金額の幅だ。具体的には、その年の保守サポート料金に、数%の「調整率」を乗じて計算した金額を上乗せする。Oracle Databaseを例に取ると、契約初年度の保守サポート料金は、製品のライセンス料金の22%。この11月以降に保守サポート契約を更新する際には、22%に調整率2%を上乗せした金額、すなわち22×1.02=22.44%が、翌年度の保守サポート料金になる。

 調整率は、米オラクルが毎年、国ごとに料率を決定する。日本でこの11月以降に更新を迎える保守サポート契約の調整率は、2%と決まっている。今後も、調整率は2~3%になるとみられる。特集ではこのほかにも、SAPジャパンや日本IBM、日本マイクロソフトといった大手ソフトメーカーにおける、ライセンス料金や保守サポート料金の最新事情をまとめている。

納得感が乏しい料金改定の理由や根拠

 値上げを迫られるユーザー企業は、当然ながら一様に不満を示す。

 「企業情報システムの構築に使うソフトを、ある企業のものから他社製品に置き換える作業には、多大な手間とコストがかかり、切り替えるのは非常に難しい。値上げされても、事実上受け入れざるを得ないことが大半だ」(ある精密機器メーカーの情報システム部長)。

 値上げそのものもさることながら、ユーザー企業が不満に思うのは、料金改定の理由や根拠に、納得感が乏しいというものだ。「なぜその値段なのか、なぜ変更するのか、メーカーの営業担当者に説明を求めても、納得のいく答えを得られることがほとんどない」。ある銀行の情報システム担当者は、こう話す。「一般の工業製品なら、製造原価や人件費などを基に価格をある程度は説明できる。しかしソフトはメーカーの言い値がまかり通っているように思えてならない」(同)。

 メーカーから得られる製品やサービスの内容が、メーカーに支払う料金に見合っていないとの不満も根強い。一例が、保守サポートサービスの一環として提供されることの多い「新バージョンの無償提供」だ。

 多くのユーザー企業は、ソフトの頻繁なバージョンアップに消極的だ。ある食品メーカーは、ソフトを更新する際、あえて最新バージョンではなく2世代前のバージョンを選ぶようにしているという。「できるだけ利用実績が多く、不具合の出尽くしたバージョンを選ぶためだ」(同社のシステム担当者)。

 グループウエアやデータベース、業務パッケージなどのソフトは、いったん導入したら、4~5年、ことによっては10年近く使い続けるユーザー企業も珍しくない。こうした企業にとっては、「保守サポートサービスの内容は、セキュリティなどの修正プログラムの提供とトラブル対応だけでよい。新バージョンの無償提供は不要なので、その分だけ保守料金を下げてほしい」というのが本音だろう。