iPadなどのタブレット端末やスマートフォンの人気で、それらをインターネットにつなぐ無線環境が以前にも増して重要になっている。特に、通信速度が速い無線LANは家や会社になくてはならない存在になりつつある。

 ここ数年、無線LANの話題といえばスピードだった。IEEE802.11nは規格上、最大600Mビット/秒を実現できる。現在、国内で販売されている無線LANアクセスポイントは最大300Mビット/秒が主流。クライアント(子機)側の対応規格に制限されるものの、数十Mビット/秒で通信できると快適さを感じる。2011年中には最大450Mビット/秒の製品も登場する予定で、スピード面では満足いくようになってきた。

 では、次に無線LANで注目すべきことは何だろうか。ベンダー側が考える次の一手は「ネットワークに簡単につなげられること」。これを実現する仕組みとして、Wi-Fiアライアンスは新たな認定プログラム「Wi-Fi Direct」を策定した。

 Wi-Fi Direct対応機器は、無線LANのアクセスポイントを介さずに、無線LAN機器(子機)同士で直接通信できる。従来も1対1の接続の場合には、アクセスポイントを介さずに子機同士が接続できる「アドホックモード」が用意されていた。Wi-Fi Directとアドホックモードは別物だが、1対1で接続するという形態は同じである。違いは、Wi-Fi Directではアクセスポイント機能を提供するソフトウエア(ソフトAP)を使う点だ。これにより、複数の子機を接続する側の機器さえWi-Fi Directに対応していれば、1対複数の接続ができる。

 Wi-Fi Directでは、例えばスマートフォンに保存した写真をパソコンに直接転送したり、デジタルカメラの写真をプリンターに直接転送して印刷したりといった使い方が可能だ。また、前述のように、複数の子機を接続する側の機器がWi-Fi Directに対応していればよいため、今持っている無線LAN対応の機器をすべて買い換えなくて済む。

 昨年末にWi-Fiアライアンスのマーケティングディレクター ケリー・デイヴィス・フェルナー氏にインタビューした際、「2011年はWi-Fi Direct対応のデバイスやアプリケーションが多く登場し、さかんに話題になるはず」と期待を語っていた(関連記事)。かなり自信満々のコメントだったので理由を尋ねると、Wi-Fi Directの開発には主要なベンダーが数多く参加し、その数はこれまでのプログラム策定の中でも最多数だったこと、さらには過去最短の早さで仕様がまとまったことなど、開発メンバーの並々ならぬ熱意を理由として挙げた。

 Wi-Fi Directの認証テストは2010年10月に始まったばかりで、まだ対応製品は少ない。Wi-Fi Directなんて初めて聞いたという人も多いだろう。今後、ベンダーがいかにWi-Fi Directをユーザーにわかりやすい形で広めていくのかに注目したい。