「稼働開始3時間前にようやくバグを修正した」「稼働セレモニーの早朝に障害が発生して対応に追われた」「稼働直前に過労で2度も病院に運ばれた」---。記者が日経SYSTEMS2010年6月号の特集1「システム稼働、その瞬間」で訪れた、取材先の声である。

 順風満帆だったシステム開発プロジェクトが、急に暗礁に乗り上げる。開発現場ではよくある光景だ。特に、システムの稼働直前に問題に直面するケースは実に多いように思う。ここでいう稼働直前とは、システムテスト終了後から稼働開始までを指す。

時間と人のやりくりが極めて難しい

 「稼働直前には“魔物”が潜む」。こんな風に表現するベテランPM(プロジェクトマネジャー)がいる。プロジェクトの最大の試練は、最後の最後に訪れるといっていい。

 なぜ稼働直前になって問題が発生するのか。その理由は大きく二つあると取材を通じて感じた。一つは「時間」の問題、もう一つは「人」の問題である。

 時間の問題とは、本来の作業に加えて、設計の不備やテストの取りこぼしで見つかったバグの修正に追われ、それでなくても時間がない中でパニックになるケースだ。

 稼働直前の時期には本来、新たなシステムや業務への切り替え、利用者や運用担当者への教育やマニュアル作成、運用テストを実施する。ところが突発的な作業が頻発し、これらの作業がなかなか進まない。そうこうしているうちに、稼働日を迎えるパターンである。

 一方、人の問題とは、稼働直前に判断や作業が特定のメンバーに集中したり、利用者や運用担当者と綿密な連携が取れなかったりする状況をいう。一刻を争う稼働直前に、キーパーソンがつかまらず、連携や情報共有のミスが生じると、プロジェクトはたちまち混乱する。

 こうした状況に対して、システムの設計や実装の段階で確実に問題を解決すべきという意見はある。だが現実には、すべてのバグを稼働直前までにつぶすのはまず不可能だ。

 移行計画をきちんと立て、リスク管理や課題管理をしっかりやるという定石もある。もちろん、これはこれで意味があるが、稼働直前に突発的な作業が頻発すると、絵に描いた餅になってしまう可能性が高い。

 そもそも、時間と人のやりくりが極めて難しいのが稼働直前である。設計や開発などそれまでのフェーズとは違う姿勢で臨まなければならない。

 ではどうするか。日経SYSTEMSの特集では、稼働直前の試練を乗り切るための七つの鉄則を紹介した。いずれも現場の経験者が過去の失敗から導いたものである。ここでは、このうち三つの鉄則を紹介したい。