クラウドコンピューティングを利用すれば企業は情報システムを保有しなくて済むので、ITエンジニアを常駐させてシステムの開発と運用を委託する必要はない。クラウドの利用が進めば進むほど、クラウドそのものを開発する仕事が残るものの、従来ほど大人数のITエンジニアはいらなくなる。

 こういう主張に対し当然反論があろう。これまでも「XXの利用が進めば進むほど、従来ほど大人数のITエンジニアはいらなくなる」という主張はITの世界においてしばしば現れた。開発支援ツール(4GLあるいはCASEと呼ばれた)の利用が進めばプログラマは不要になる、ERPパッケージソフトの利用が進めばシステムを開発する必要がなくなる、といった具合である。古くはAI(人工知能)がSE(システムズエンジニア)を肩代わりするという見方すらあった。

 だが、こうした主張通りになったことは一度もない。クラウドについても同じことだ。反論をいくつか挙げてみよう。

 クラウドの利用を進めようとすると、クラウドから提供されるアプリケーションの利用画面をカスタマイズしたり、クラウドと既存システムを接続するなど、新たな作業が発生し、結局は人手が必要になる。現行のアプリケーションをクラウドのサービスの一つに変えて利用する場合も相当な修正が不可欠で、やはりエンジニアが求められる。

 IT企業がクラウドと銘打っているサービスは、データセンターでシステムを預かるホスティングサービスだったりする。これを使えば、個々の企業の現場には「従来ほど大人数のITエンジニアはいらなくなる」が、従来のエンジニアはデータセンター側に移るだけで不要になるわけではない。

情報共有分野でクラウドを導入済み/導入予定は13%

 そもそもクラウドの利用がどこまで進むのか、まだ分からない。日経コンピュータがCIOやシステム部長250人に尋ねたところ、「情報共有分野でクラウドコンピューティングを導入済み/2010年に導入予定」と答えた比率は13.2%であった(出所:日経コンピュータ2010年1月6日号の特集記事)。

 「導入済み/2010年に導入予定」と答えた比率は、販売/顧客分野を見ると10%になり、生産/物流分野が4%、財務/会計分野は4.8%であった。逆に「関心がない」と答えた比率は、情報共有分野について16.8%、販売/顧客分野が29.6%、生産/物流分野が41.2%、財務/会計分野は32.8%であった。

 2011年に入れば、「導入済み/2011年に導入予定」の比率が高まり、「関心がない」比率は減っていくのだろうか。そうならないと「クラウドの利用が進めば進むほど」という状況には至らない。

 反論はどれもその通りに思える。ただ、ITエンジニアが突然不要になることはないにしても、クラウドで総称される様々な新しい動きが進んでいき、長い目で見るとITエンジニアに求められる能力が変わっていくのではないか。

 日経コンピュータはこうした問題意識から、「クラウド時代に活きる『四つの現場力』」と題したセミナーを開催する。クラウド時代にIT産業がどう変わるのか、その変化が起きたときエンジニアに求められることは何か、生き残るエンジニアになるにはどうしたらいいのか、といったテーマで論客の方々に講演していただく。