3月中旬、米国ラスベガスで開催されたマイクロソフトの技術カンファレンス「MIX10」でInternet Explorer(IE)の次期バージョンIE9の概要が発表された。そこで、JavaScript実行速度の向上など、IE9における様々な強化点が発表された(関連記事)。中でも、筆者が関心を持ったのはHTML5への対応で、特にSVGの標準サポートを正式表明した点に興味を覚えた。

 SVGとはScalable Vector Graphicsの略で、画像を扱うためのフォーマット形式である。JPEGやGIFなどと同じようなものと考えればよい。ただし、JPEGやGIFがラスター方式と呼ばれる画像を細かいドットで表す方式を使っているのに対し、SVGはベクター形式と呼ばれる画像を構成する線の位置や関係といった情報で表す方式を使っている点が異なる。ベクター方式を使うことで、画像サイズが携帯電話のような小さなものでも、PCやあるいは大型テレビのような大画面のものでも、変わらずに同じように高いクオリティで見られる。簡単に言うと、拡大しても輪郭がギザギザになるようなことがないのである。

 SVGのデータはXML形式で表現する。このため汎用性が高く、JavaScriptなどでも扱いやすい。テキストエディタで開いても、JPEGやGIFのように呪文のような文字が表示されることはなく、きちんとした文字列が表示されて簡単に編集できる。レイヤー機能もあるので、必要に応じてレイヤーごとにデータを定義できる点も便利といった特徴がある。

 いろんなサイズの画面で表示され、AjaxをはじめとしてJavaScriptを使うことが多いWebでは、画像を扱うフォーマットとしてSVGが適しているはずである。だが、Webの標準を決めていたW3C(World Wide Web Consortium)の勧告となった2001年9月から、既に8年以上の月日が経っているにもかかわらず、SVGはメジャーな画像フォーマットとはならなかった。これは、IEにそっぽを向かれてきたことによる影響が大きい。

 FirefoxやOpera、SafariなどIE以外の著名なWebブラウザのほとんどは、レベルの差こそあれSVGをサポートしている。だが、IEでは、最新のIE8を含めて、歴代のバージョンすべてで一切SVGをサポートしてこなかった。IEでSVGを扱いたければ、プラグインなどの形で別のプログラムを組み込む必要があり、ユーザーにとっては実用的な環境ではなかった。Webブラウザの中でIEが圧倒的なシェアを占めてきたIEがサポートしてこなかったことで、SVGはなかなかメジャーなフォーマットして普及しなかったのだ。

IE9ではSVGを標準フォーマットとして位置付け

 ところがMIX10で、マイクロソフトは一転してIE9においてSVGを積極的にサポートする方針を明らかにした。

写真1●マイクロソフトではWeb2.0に続いてHTML5時代がくることを想定している
写真1●マイクロソフトではWeb2.0に続いてHTML5時代がくることを想定している
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 Microsoftは、Web2.0と呼ばれている現在のAjax全盛期の次のWebとして、HTML5を活用したコンテンツの時代が来ると予測している(写真1)。このHTML5を構成する重要な要素として、IE9ではSVGをサポートする。しかも、単純にSVGを扱えるようにするのではなく、IE9のレンダリングエンジンではGPUを活用したSVGのハードウエアアクセラレーションも実装するという。

 MIX10のキーノートでは、SVGを使って記述したコンテンツをIE9とGoogle Chromeの2つの画面を並べて同時に表示し、IE9の方が高速に処理できることをデモするなど、IE9におけるSVGサポートを全面的に押し出していた。Webサイトでも、これまでのIEで同様の画像フォーマットとしてマイクロソフトが推奨してきたVML(Vector Markup Language)からSVGへのマイグレーションガイドを公開するなど(該当サイト)、マイクロソフトが“本気”でSVGを次世代Webの標準フォーマットして取り扱っていく姿勢を示している。

 このIE9が実際に登場し、多くのユーザーに使われるようになっていけば、いよいよSVGがWebの世界で広く使われることになるだろう。もちろん、現在のJPEGやGIFがなくなるとは思わないが、少なくともベクターグラフィックスでは標準的な仕様になっていく可能性が高い。SVGとJavaScriptを組み合わせることで、もしかすると現在のAjaxよりもリッチなコンテンツがいろいろと登場するかもしれないと想像するとわくわくしてくる。

 とは言え、心配となるのが、IE9で実装するSVGが、ほかのWebブラウザと互換性があるのかという点だ。もし、IE独自のSVGの記述をコンテンツ業者が記述する必要がある事態になってしまっては、SVGの魅力も半減する。

写真2●MIX10のセッションで示されたIE9におけるSVGの実装状況
写真2●MIX10のセッションで示されたIE9におけるSVGの実装状況<br>現在公開されているプレビュー版では、まだ一部の機能しか実装していない。
現在公開されているプレビュー版では、まだ一部の機能しか実装していない。
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 マイクロソフトではIE9でサポートするSVG規格をSVG 1.1 Second Editionとしている。また、「どのブラウザでも同じコードが同じように動作するようにW3Cに情報を提供していく」としている。だが、MIX10に合わせて公開されたIE9のプレビュー版では、まだSVGのうちの一部の要素しか実装しておらず、今後SVGのサポートを拡大していくとするにとどまっている(写真2)。IE9が正式に出荷された時点で、SVGの実装がどうなるのか、今後の動向をぜひ注目していきたい。