以前、「記者のつぶやき」の欄で、SE特有の「不合理な信念」を紹介したことがある(「SE特有の『不合理な信念』がこころの病を招く?」)。
「不合理な信念」とは、ネガティブな思考を生み出し、結果的に抑うつ症状や不安気分などの症状を引き起こす信念や考え方のことである。この信念や考え方を変えることで、抑うつ気分や不安気分を低減することができる。
「SE特有の『不合理な信念』がこころの病を招く?」では、SEのメンタルヘルスに関する勉強会「SEのメンタルヘルスを考える会」が、SE特有の不合理な信念をアンケート調査で明らかにしようとしていることを紹介。「調査結果が明らかになったら、ぜひ紹介したいと思っている」と結んだ。この調査結果がまとまったので、今回は調査結果のさわりを紹介したい。
調査を実施したのは、東京家政大学の福井至教授のグループだ。194人のSEに「SE特有の不合理な信念」に関する質問用紙を郵送し、161人の回答結果を分析した。
その結果、以下のようなSE特有の不合理な信念があることが、明らかになった。
- 優秀志向(「優秀なSEでなければならない」「上司から常に高い評価をされていなければならない」など)
- 自己犠牲志向(「休日もプロジェクトのために仕事を進めるべき」「寝る間も惜しんで納期は守るべき」など)
- 完璧志向(「本番環境でのシステムの不具合は絶対に許されない」など)
- 理性志向(「SEは感情を表に出すべきではない」など)
- 孤立志向(「開発作業中に話しかけられるのは我慢できない」など)
いずれも、どんな職種でもありえるが、特にSEという職種で顕著に表れることが、今回の調査で明らかになった。こういう考え方をしている人は、結構いるのではないだろうか。
これらで問題なのは「常に~でなければならない」などの硬直した考え方である。こうした考え方にこだわり過ぎると、そうならなかったときに落ち込んだり、自分が許せなくなったりして、抑うつ症状や不安気分の引き金になる。そうではなく、「~であることはもちろん望ましいが、できなくても気にせずまたがんばればいい」という風に考えるべきなのだ(合理的な信念)。
「不合理な信念」を意識し、「合理的な信念」に近づける
もともとこの調査は、効果的な心理療法である「認知行動療法」のカウンセリングで用いる「認知行動療法・実践カード」を作成するのが目的だった。認知行動療法・実践カードとは、「不合理な信念」「そう考えて得すること」「そう考えて損すること」「合理的な信念」が書かれたカード群のこと。カードをカウンセラーが読んだり患者が読むことで、不合理な信念を修正しやすくなる効果がある。
カウンセリングを受けるのはもちろん効果があるが、それ以前に、SE一般、そして自分自身にどんな不合理な信念があるのかをSE自身が知り、意識しておくことが大切だ。それを修正すれば、こころの病の予防につながる。
具体的には、「優秀なSEでなければならない」といった一つひとつの不合理な信念について、「そう考えて得すること」と「そう考えて損すること」を考え、「合理的な信念」に近づけていく。5月ころにITproで、SEの不合理な信念について詳しく解説した記事を公開する予定なので、こころの病の予防にぜひ役立てて欲しい。
実は、不況の今、こころの病の予防の重要性はますます高まっている。というのも、こころの病が悪化して会社を休職してしまうと、復職できる保証はないからだ。
上述の「SEのメンタルヘルスを考える会」の中心メンバーであるシニア産業カウンセラーの粟竹慎太郎氏は、「最近、こころの病による休職から復帰できずに、退社に追い込まれるケースが増えている」と指摘する。不況でコストカットが至上命題になっている中、会社側に、こころの病で仕事の効率が悪くなっている人を受け入れる余裕がなくなっているのだ。本人が復帰したくても「もっと休んでくれ」と言われ、結局退職に追い込まれることが多いという。
景気の先行きがいまだ不透明な今、こころの病で休職するのは高いリスクが伴う。こころの病を自分自身で予防する姿勢が大切だといえよう。