こころの病の治療法の一つに「認知行動療法」というカウンセリング手法がある。認知行動療法とは,不合理な信念や考え方を修正することで,感情や行動を改善していく治療法。これは,不合理な信念や考え方が悲観的な感情や行動につながる,という前提に立っている。

 東京家政大学 人文学部 心理カウンセリング学科の福井至教授は,カウンセラーがこの認知行動療法を実施するときのツールとして,不合理な信念や考え方を修正するためのカード群を作成している(関連サイト)。例えば,不合理な信念を修正するためのカードには,「不合理な信念」「そう考えて得すること」「そう考えて損すること」「合理的な信念」が書かれている。次のようなイメージだ。

不合理な信念
たくさんの仕事を引き受けて立派にこなさなければならない。

そう考えて得すること
たくさんの仕事を立派にこなす努力ができる。
責任感が強くなれる。
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そう考えて損すること
力がまったく抜けず疲れてしまう。
立派にこなせなかったときに落ち込んでしまう。
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合理的な信念
多くの仕事を立派にこなせたらいいけれど,すべてを立派にこなすのは難しいので,たまにはそうできないことがあっても,気にせず次またがんばればいい。
自分のできる範囲のことを,手を抜かずに丁寧にやればよい。
・・・

 このカードをカウンセラーが読んだり,患者自身が読むことで,不合理な信念を修正しやすくなる。

 現在,職種別のカードとして「認知行動療法・実践カード〈管理職編〉」と「認知行動療法・実践カード〈教師編〉」があるのだが,福井教授が次に作成できないかと考えているのが,<SE編>だという。

SEにはSE特有の「不合理な信念」がある

 福井教授は,SEのメンタルヘルスに関する勉強会「SEのメンタルヘルスを考える会」のメンバー。SEのメンタルヘルスを考える会は,「こころの病を発症するSEが急増している中,なんらかの支援ができないか」と考えたシニア産業カウンセラーの粟竹 慎太郎氏が,SEのメンタルヘルスに詳しい専門家に声をかけて2007年11月に立ち上げた。

 SEのメンタルヘルスを考える会の最終目標は,なんらかの形で「SEのためのセルフケアの方法」をまとめること。そのために,SEなら誰もが直面する仕事上の課題やSE特有の信念・考え方,食事や栄養,運動を含めた生活のあり方---などを調査・検討する。

 特に興味深いのが,SE特有の信念・考え方の調査・検討だ。「SEには,SE特有の『不合理な信念』があるように思う。例えば,『納期は絶対に守らなければならない(納期は命)』という信念。当然必要な考え方だが,『倒れてしまうまで仕事をしなければならない』と信じ込んでいたら危険だ」(粟竹氏)。

 SE特有の不合理な信念を調べるために,夏頃に,福井教授と大学院生がSEのメンタルヘルスを考える会と協力して,SE向けにアンケート調査を実施する予定である。その結果を基に,「可能であればSE編のカードを作りたい」(福井教授)。

 「納期は命」のほかにも「顧客至上主義」など,調べれば,SE特有の「不合理な信念」はいろいろありそうだ。調査結果が明らかになったら,ぜひ紹介したいと思っている。